米国経済の動向と「金」先物価格に注目

 今後の世界の実体経済と株式市場の展開を考える上で最重要なのは、何といっても米国経済の動向だ。4~6月期、米国の実質GDP(国内総生産)は前期比年率で2.8%増加。FRBが推計する潜在成長率(1.8%程度)を上回った。需要項目別に、主に個人消費と設備投資が成長に寄与した。

 問題は、ここから先、米国経済がどのような展開を辿るかだ。AI事業での収益化に時間がかかること、インテルのリストラ規模などのファクターを考えると、労働市場は緩やかに軟化傾向をたどる可能性がある。

 短期的なハード・ランディング(個人消費が腰折れになるなどして景気が急速に悪化すること)は考えにくいが、成長率は少しずつ低下する可能性が高い。飲食、宿泊などサービス業の分野で雇用機会が減少し、景況感がだれる可能性は高まるだろう。米国経済全体で企業業績が伸び悩むことも懸念される。

 景気の減速により、政治リスクは上昇する可能性が高い。近年、世界の政治、経済、安全保障の基軸国家である米国の社会分断が深刻だ。海外との連携か、米国ファーストか、為政者への要求も世論も割れている。

 11月の米大統領選挙の結果にもよるが、米国政府は有権者の支持獲得に財政支出を増やす可能性がある。財政支出が増えるとドルの減価リスクは高まる。ドル安により、輸入物価の上昇などによって景気が減速する中で、米インフレ懸念が再燃することも想定される。

 米国の景気減速によって、世界全体に負の影響が及ぶことを不安視する投資家は増えた。一部の有力投資家は、割高感のある米国株を売り、現金で滞留させたり、一部を金(きん)に振り向けたりしている。8月1日、金先物価格は1トロイオンス当たり2480.80ドルに上昇し、リーマンショック後の高値を更新した。株価の下落と対照的に金価格が上昇したことも、米国経済の先行き不安の高まりを示唆している。当面、リスクの削減を優先する投資家は増加する可能性が高いだろう。