日経平均株価が最高値を更新した今年上半期、最も値上がりした銘柄は実は物流株である。株価上昇率で1位はC&Fロジホールディングス、3位がアルプス物流。いずれも物流大手の激しい争奪戦に発展し、株価が急騰した。その再現性は高い。強者が弱者を食う再編時代が物流業界に到来したからだ。特集『物流大戦』の#1で、その「台風の目」となり得るキーマンに直撃した。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
AZ-COM丸和の「同意なき買収」に衝撃
異色の経営者が群雄割拠する物流業界
「食う側に回るか、食われる側に回るか。今の物流業界はまさにそういう状況にある」
首都圏にある運送会社の社長が、そう身震いする根拠は幾つかある。
2024年4月、自動車運転業務の時間外労働の上限が年間960時間に制限される働き方改革関連法が施行された。いわゆる「2024年問題」によりトラックドライバーが1日に運べる荷物の量が削減され、物流会社は旧態依然としたビジネスモデルの転換を迫られている。
6万3000社余りの運送事業者のうち、その過半数はトラック保有10台以下の小規模零細事業者である。人手を確保できない上に燃料費の高騰などで資金繰りが悪化し、倒産や会社の売却を選ぶ事業者が増えている。
再編淘汰の波は、上場する物流大手にも押し寄せる。業界を震撼させたのが今年3月、AZ-COM丸和ホールディングスが同業のC&Fロジホールディングスに仕掛けたTOB(株式公開買い付け)だ。
丸和は22年10月に経営統合の提案を持ち掛けたが拒否され、C&Fの経営陣の同意のないまま買収提案に踏み切った。
最終的に佐川急便を傘下に持つSGホールディングスがホワイトナイト(白馬の騎士)として名乗りを上げ、丸和の提示した1株3000円を倍近く上回る5740円でC&Fを買収。この争奪戦でC&Fの株価は急騰し、東京証券取引所プライム上場企業で今年上半期に最も値上がりした銘柄となった。
3位のアルプス物流も、アルプスアルパイン系の物流会社だ。この入札には当初15社もの物流会社や倉庫会社が参戦し、激しい争奪戦の末に米投資ファンドKKR傘下のロジスティード(旧日立物流)が1株5774円でTOBを実施することが決まった。6月には西濃運輸を傘下に持つセイノーホールディングスが、三菱電機から三菱電機ロジスティクスを572億円で買収した。
2024年問題がトリガーとなり、突如として勃発した物流業界のM&A(合併・買収)。だが、再編の予兆は以前からあった。同業の買収を繰り返し、勢力を拡大し続けるキーマンが業界には存在する。
彼らは今後、物流再編の台風の目となり得る。そして次なる買収ターゲットに既に照準を定めている。C&Fやアルプス物流で起きたような株価高騰が、他の銘柄に波及する再現性は高い。
天下取りをもくろむ異色の経営者が群雄割拠する物流業界。その全貌を次ページで明らかにする。