「から騒ぎ」だった南海トラフ巨大地震、日本の地震予知に欠けている重要な視点とは日本中が不安に陥った南海トラフ地震「巨大地震注意」は1週間で解除された Photo:JIJI

「巨大地震注意」は何事もなく解除
社会が被った予想以上の影響

 私は元編集者で地震の専門家ではありませんが、逆に専門家の言うことも「まずは疑ってかかる」ということを、仕事上の責任だと思っています。

 8月8日に宮崎で地震が起こり、政府は「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を召集、その夜には南海トラフ地震臨時情報として「巨大地震注意」という文言が日本中にあふれました。日本中がバニックになり、お盆の連休に期待していた観光地の宿泊施設では予約のキャンセルが相次ぎ、新幹線は徐行し、人々は食料品の買い出しに走りました。

 そんな中、私も建設、消防、自衛隊、自治体などに関わるキーマンたちに意見を聞き、日本が最低限取り組むべき防災・減災対策についてまとめた記事を寄稿しました(https://diamond.jp/articles/-/348677)。しかし、たった1週間後の15日に「巨大地震注意」の呼びかけは解除となりました。

 日本は地震大国ですから、地震への警戒は常にすべきですが、何十年も国家予算をかけて、政府と気象庁が「地震予知連絡会」を運営しているのに、予知を成功させたことがなく、また珍しく「巨大地震注意」という予告を出したのに、「地震活動などに特段の異常が観測されなかった」と、明確な説明がないまま収束しました。この機に、地震予知の方法を見直してもいいのではないかと思います。

 もちろん、巨大地震のリスクを常に分析し、少しでも不安が生じれば国民に早期の警戒を呼びかけることは、国家として必要不可欠な仕事の一つです。今回は事前に決められたルールの範囲で適正に発出された呼びかけでもあったことでしょう。1週間で解除されましたが、引き続き国民一人一人が警戒を続けるべきです。とはいえ、これだけの影響を社会に与えることが改めてわかったのだから、予知の精度を上げていくことも、同じくらい重要なテーマだと思うのです。

 そもそも論になってしまいますが、ロバート・ゲラー東大教授は「地震予知が科学的に不可能である」と主張していました。彼によると、(1)日本政府が使用している確率論的地震動予測地図は、実際の地震発生場所と一致しないことが多く、その信頼性に疑問がある、(2)地震の前兆を観測することは非常に難しく、短期的な地震予知は現実的ではない、ということです。

 実際、予知に成功していないわけですから、この主張は一定の説得力があります。