たまたま日本の場合、地形的に特殊な場所にあり、プレートが起こした地震と解釈できる部分があったため、学者の多くがプレート説に取り憑かれてしまったというのです。
実はプレートを動かしているのは、もっと地球の深奥にある高熱流であり、プレートはその共犯者でしかないと角田氏は推理しています。つまり無縁ではないのですが、マントルが地震を起こして、下から突き上げられたプレートが動いて最終仕上げをするという構造になっており、前述のようにプレートそのものには大きなエネルギーを放出する力はないということで、「プレートを追いかけても、地震予知はできない」というのが氏の仮説の結論です。
そして、地球には黒潮のようなマントルの流れが三つあり、そのうち二つが日本列島の下にあります。M7以上の地震の半分が日本で起こるのは、そのためだというのです。
「角田仮説」では、地球の深層で5回以上M5以上の深発地震が起こり、それが3回続くと、確実にそのマントル対流上で大地震が起こるそうです。たとえば阪神淡路大震災のときは、5カ月前と2カ月前にフィジーとジャワで起きていました。東日本大震災のときは、約1カ月の間にフィジーとフィリピンで10回起きていました。熊本地震の場合も、小笠原とフィジーで5回起きています。
様々な仮説を検証しながら
自ら警戒して備えるべき
このように、過去の大地震と深層地震と火山の関係を調べると、過去に起きた86回に及ぶM7以上の大地震は、すべてこの例に当てはまると本書は伝えています。
本書には、大地震が次にどこで起こるかという予測も詳述されていますが、ネタばれになるので、紹介するのはやめておきます。もともとは、政府側にいて地震予知連絡会が地震を予知できないことに不審感を持った藤氏が、自身の仮説を紹介するために出版したもので、近いうちに南海トラフ地震にポイントを絞った新刊も上梓されるそうです。
もちろん、日向灘では群発地震が続いています。そして確率論ではありますが、昭和東南海地震から80年という注意喚起にも、それなりの説得力はあります。ですから読者諸氏には、引き続き警戒を緩めないでほしいと思います。日本は地震大国。そしてここで紹介した話も、今のところ仮説にすぎません。科学的にははっきりしたことはわかっていないのだから、自ら警戒して備えるしかないのです。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)