「自分の能力は努力で伸びる」と
信じる心が「やり抜く力」を支える

 もうひとつの重要な非認知能力である「やり抜く力」はどうでしょうか。スタンフォード大学の心理学者であるドゥエック教授は、この力を伸ばすためには「心の持ちよう」が大切であると主張しています。

 ドゥエック教授らの研究によれば、「しなやかな心」を持つ、つまり「自分のもともとの能力は生まれつきのものではなくて、努力によって後天的に伸ばすことができる」ということを信じる子どもは、「やり抜く力」が強いことがわかっています。

 ドゥエック教授らの実験では、親や教師から定期的にそのようなメッセージを伝えられた子どもたちは、「しなやかな心」を手に入れ「やり抜く力」が強くなり、その結果、成績も改善したことが明らかにされています。

書影『「学力」の経済学』(ディスカヴァー携書)『「学力」の経済学』(ディスカヴァー携書)
中室牧子 著

 逆に、「やり抜く力」を弱める「心の持ちよう」もあります。「ステレオタイプの脅威」といわれるものです。とある研究では「年齢とともに記憶力は低下する」という記事を読んだ人と読まなかった人だと、記事を読んだ人のほうが実際に記憶している単語量が少なかったことが示されています。

 また、インドの実験では、農村の少年たちにカーストと呼ばれる自分たちの社会的な身分を思い出させてからテストを受けさせた場合、そうしなかったときにくらべて、成績が悪かったことを示す実験があります。

 つまり、「年齢とともに記憶力は悪くなる」とか「社会的な身分が低いと成功できない」というステレオタイプを刷り込まれると、まさに自分自身がそれを踏襲してしまうのです。