「100%大丈夫」と書いてはいけない

 稟議書にはさまざまな必要事項を記載する必要があります。融資をするお客さんの会社概要から財務状況、今回の融資の利用目的、採算性など、挙げていくとキリがないのですが、結局何が大事なのかというと「貸した金がちゃんと返ってくるか」の一点です。

 ではここで問題です。銀行員はお客さんにお金を貸す際に100%返ってくると断言できるくらいの判断能力を持っているでしょうか。

 答えはNOです。融資とはそう簡単なものではないです。コロナ禍のような今まで経験したことがないような未曾有の事態が起きるかもしれませんし、最近話題になっているような変動金利の上昇によって融資の返済が難しくなってくるかもしれません。

 なので、僕たち銀行員は、稟議書で「100%返ってくるから大丈夫」とは決して書けません。そもそも100%などありえないので、本来、そう書いてはいけないのです。では、どう書けばいいのでしょうか。

「いろいろ考えたけど多分大丈夫」をうまく変換する

「いろいろと考えたけど返済は多分大丈夫そうだと思う」と書きます。限りなく100%返ってくると考えられるような根拠を列挙し、最後は多分大丈夫。と締めるわけです。

 でも「多分大丈夫だと思う。」なんて文章で締めくくられていたとしたら通る稟議も通らないですよね。それはあなたの感想ですよね? と突っ込まれそうです。そこで「思料」の出番です。思料自体は「思う」と言う意味合いを持つビジネス文字ですが銀行界隈では多用される魔法の言葉です。これを使うと先ほどの文章は「各諸条件を勘案、最終償還懸念は僅少であるものと思料」と書けるようになります。言っていることは同じなのに突然それっぽく見えるのが「思料」の魅力です。

 このように、銀行のビジネス文書は難解な文言のオンパレードなのですが、実際に書かれている稟議書を読むと、結構大したことがない文章が多いです。早く生成AIで稟議が書かれる時代がきて欲しいと思料しています。

(本記事は『雑用は上司の隣でやりなさい』の著者による特別な書き下ろし原稿です)

著者:最短出世中・現役エリートメガバンクブロガー たこす
本部公認で副業としてブログを運営する、年収1400万円の現役メガバンク行員。10年以上メガバンクという極限の環境で生き残り、最短で出世街道を歩んでいる。新卒で配属された支店で猛烈なパワハラ上司に理不尽に詰められ続ける過酷な労働環境の中、理系的な分析手法によって独自の「高コスパな仕事術」を編み出す。証券会社に出向して花形の投資銀行業務に携わった後、銀行に戻って上場企業を中心とした大企業営業を経験。現在も本部勤務を続けている。