「お客様に信頼されるコツは、究極的にはたった1つです」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が『記憶に残る人になる』。ガツガツせずに信頼を得るための考え方が満載で、「本質的な内容にとても共感した!」「営業にかぎらず、人と向き合うすべての仕事に役立つと思う!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、幼い娘から学んだ「仕事の本質」について紹介します。
子供のほうが「仕事とは何か?」がわかっている
「パパ、お仕事って何?」
ある日、帰宅するなり、当時5歳だった長女から質問されました。どうやら保育園でお仕事ごっこをしたそうです。娘の役は大好きなカフェの店員さんでした。
返答に困っていると、娘はこう言いました。
「〇〇君にはミルク、〇〇ちゃんにはコーヒーをあげたよ!」
ニコニコ笑顔で話す娘が、きっといちばんわかっていました。
誰かを笑顔にすること。
それが、仕事だと。
大人と子供、どちらが優秀なのかなと、考えたことがあります。
当然ながら知識や経験、スキルなどは、子供は大人には敵いません。
でも、「人間性」はどうでしょうか。
子供は本当に自由で、優しい心を持っていて、素直です。困っている人がいたら助けたいし、喜んでもらいたいし、それで自分も嬉しくなります。知識やスキルはあっても、「営業だから」とか実体のない役割に縛られ苦しんでいた僕は、そんな子供たちに明らかに負けていました。
「機械的な対応」なんてしなくていい
ときに役割は、人と人との結びつきを侵食します。
規範や役割を守ることが仕事ではありません。あらゆる仕事は感情を持った「人と人」のコミュニケーションによって成り立っています。商品やサービスを売るのは結果であって、その前には人として好かれ、信頼されなくてはいけません。
相手のために何をしてあげたいか。何をしたら喜んでくれるか。これを考えることがすべてだと思うのです。
今の時代の流れにおいては、逆行した考え方のように感じるかもしれません。
デジタルや機械の力であらゆる仕事が自動化され、同一の商品やサービスを大量に提供できるようになりました。
AIの力によって人間の判断を介さずとも対応が可能になり、統計なども駆使した最適な答えが瞬時にわかるようになりました。
そもそも日本のサービスの強みは、徹底したマニュアル化や管理によって均一的なクオリティを提供することでもあります。
ですが、そんな「予想できる正しさ」ばかりが溢れる時代だからこそ、本能や直感を大切にした、ときに不合理な「人間らしい存在」こそが記憶に残ります。
だから人間まで、ロボットのような存在になる必要はないと思うのです。
ただ「人間」らしくある
長女の体調が悪くなり、病院に診てもらったときのことです。1件目の病院では「風邪」と診断されましたが、それでも不安が消えず、その後も数件の病院をはしごしました。
最後に診てもらった病院でも、診察結果はやはり風邪でした。でもその病院の医者は、僕にこう言ってくれました。
「お父さん、心配だったでしょう」
その言葉を聞いた瞬間、恥ずかしながら診察室で泣いてしまいました。医者と患者としてではなく、人として寄り添ってくれた言葉が、僕の不安な気持ちへの処方箋になったんです。
お客様のために何かをしてあげたいと思ったとき、頭によぎる「でも、会社はこう言うだろうな」「でも、営業ならこうあるべきだよな」という思い。
それに惑わされず、あなたがしてあげたいと思ったことを貫けばいいだけです。
「人間らしくいる」
これが、信頼を得るためにいちばん大切なことなのです。
(本稿は、書籍『記憶に残る人になる』から一部抜粋した内容です。)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。地元の愛媛から18歳で上京。居酒屋店員やバーテンダーなどを経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。お客様の記憶に残ることを目指し、1年で紹介数が激増。社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。株式会社OpenSkyを経て、40歳で独立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。