職場には「すぐあきらめる人」と「絶対あきらめない人」がいる。一体、何が違うのだろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。
やっかいに思える問題にぶつかったときには、その解釈を変え、問題そのものをかき消してしまうか、扱いやすい具体的な課題へ昇華させ、次の一手をはっきりさせるかのどちらかが有効である。
人はつい問題を正面から“解決”しようと、悩みの袋小路に入り込んでしまう。
「だから問題の“解消”を目指そう」というのがここまでの一貫したメッセージだった。
しかし、シンプルに「問題の解決」に着手したほうが手っ取り早いケースもある。
ここではそれについて詳しく見ていこう。
99%は「思いどおりにいっていない」だけ
多くの人はトラブルが起きたり、壁にぶち当たったりしたとき、つい「うまくいかなかった」と考えてしまう。
しかし、ゴールにたどり着くことを「うまくいく」と定義した場合、こう考えるのは誤りである。
なぜなら、たいていの問題が意味しているのは、「自分があらかじめ考えていた計画・方法の1つが失敗した」ということでしかないからだ。
それは「うまくいかなかった」ではなく、「思いどおりにいかなかった」と呼ぶべきである。
「いまはまだうまくいっていない」だけなので、「もはやどうしようもない……」と絶望する必要は1ミリもない(本書プロローグの「大原則①」)。
実際のところ、世の中の問題の99%は、「うまくいかなかった」ではなく「思いどおりにいかなかった」である。
したがって、計画や方法を変えさえすれば、「これからうまくいく」可能性は十分にあるのだ。
別のやり方を試して失敗しても、また何度でもやり方を修正すればいい。
世の中は本書で紹介した「10回に1回の法則」で動いているので、その後9回修正すれば、最後は必ず成功できる。
すぐに「万策が尽きた」とあきらめる人に足りないもの
ただし、やり方を修正していくときには、誤った前提や勝手な思い込みが入り込む。
そのまま試行錯誤するだけだと、壁にぶつかる可能性が高い。
実際、新規事業を立ち上げ、あらかじめ決めていたとおりに戦略を実行し、すべて思いどおりの結果が出たものの、フタを開けてみると、その事業自体が赤字だったという人を知っている。
おかしいなと思い、その戦略で想定されている市場規模や顧客単価などを細かくチェックしてみると、どう計算しても、その市場では黒字になりようがない構造になっている。
つまり、前提がそもそも間違っているのだ。
このように、「思いどおりにいった」にもかかわらず、「うまくいかない」というケースもありうる。
限られた前提のもとでは、限られた打ち手しか発想できない。
やり方を修正していっても、そのうち「万策尽きた……もうダメだ……」と悩みモードに入ってしまう。
これを避けるには、自分の「最終目的」を見失わないようにしながら、「前提」をずらしていく発想(ラテラルシンキング)が必要になる。
そのときに最も手っ取り早いのは、「着眼法」で他者の成功例を取り入れていくことである。
「突然のマイナス事態」はまったく突然ではないワケ
たしかに「悩まない」ためには、以上のような考え方が有効である。
大きな問題にぶつかったときほど、この思考アルゴリズムを意識するといい。
しかし、同時に注意したほうがいいことがある。
「マイナス100」くらいの大きな問題にぶつかったとき、そのマイナス分を取り返そうと、つい「プラス100」を狙ってしまう人がいる。
そこで、これまでの前提にとらわれない斬新な一手で、起死回生を図ろうとしてしまうわけだ。
前述したように「未知の問題」の解決法は「最終目的逆算思考」だが、過去にうまくいっていたものがうまくいかなくなってきたときは「原因解消思考」が必要だ。
「マイナス100」くらいの危機的な状況は、だいたい外的な原因からではなく、「自分」から生まれている。
具体的にいうと、「以前はきちんとやれていたことが、いまは疎かになっている」可能性を疑ったほうがいい。
そんなときは、いきなり突飛なやり方に飛びつくのは得策ではない。
むしろ、「以前にできていたこと」をきっちりこなす自分を取り戻し、シンプルに「ゼロ」を目指すべきである。
これができれば、同じ原因でマイナスに陥ることは二度となくなる。
物事がうまくいっているときほど、いつのまにか「以前にできていたこと」ができなくなる。
会社を経営していると、これを実感する機会には事欠かない。
たとえば、何か新しい施策に着手することで、会社に「プラス100」の効果が生まれたとしよう。
そうなれば、当然、私もメンバーたちも「よかった!」と喜ぶ。
しかしその背後では、新しい施策に手を割かれたことで、既存の施策の実行がいい加減になっていたりする。
そのせいで「マイナス100」が生まれているのだが、新施策のおかげでそれが見えにくくなっている。
つまり、実際には新施策の効果は「プラス200」なのである。
このとき、新施策の効果が一過性のものだと、その魔法が解けた途端、会社全体は元の「ゼロ」ではなく、それよりひどい「マイナス100」の状態に陥る。
これがいわゆる「スランプ」が発生する原理だ。
この「マイナス100」は、主観的には「突如として外から訪れた危機」のように映る。
だから、この下落分を取り戻し、「プラス100」へ一発逆転を図ろうとする。そこで「こんなやり方はどうだろう?」とまた新しい戦略を探り始めるわけだ。
「外部要因」より「内部要因」を疑う
しかし私は、こういうとき、「以前にできていたこと」がやれていない可能性をまず疑う。「原因解消思考」の登場だ。
あらゆる数字をすべて洗い出し、過去と現在を逐一比較していくと、必ず過去よりもヘコんでいる数字が見つかる。これこそ、現在しっかりと実行できていない「抜け」「漏れ」である。
このとき、真っ先にやるべきは、スランプの原因であるこの「バケツの穴」を塞ぐことである。
抜け漏れ対策を講じれば、会社の数字は元どおり「ゼロ」に戻るからだ。
新しい戦略を策定して、ジタバタする必要はない。
これまでどおり、やるべきことをサボらず、ただ粛々とやるだけだ。
新しい戦略を実行に移すのは、その後である。
商品の売上が下がったり、会社の業績が落ち込んだりしたとき、すぐに外部環境の変化のせいにする人がいる。
しかし、そうしたマクロの影響を受けるのは、ビジネス自体に相当な規模感がなければならない。
「世の中のトレンドが変わったせいで……」
と言っている人に限って、そんな影響が出るはずもない小さな商売をしている。
大きなマイナスはたいてい「内部要因」で起こっている。
そして、そのほとんどは「これまでやれていたことがきっちりできなくなっている」だけのことである。
事業規模が年商100億円に満たないビジネスをしている人が、環境や時代変化による落ち込みを訴えるのは、端的に言っておこがましい。
結果オーライは「悩みの前兆」と思え
ここではビジネスの事例を紹介したが、これはあらゆる悩みに関してもいえる。
突然、いろいろなことがうまくいかなくなりだしたと感じたときには、「これから新しく何を始めるべきか?」ではなく、「これまで自分は何を続けてきたか? 中断してしまっていることはないか?」を考えたほうがいい。
これと似た理由で、「ラッキーパンチ」や「結果オーライ」も、悩みの原因になりやすい。
経営者の世界では「経営とは思いどおりの成果を出すことだ」といわれる。
つまり、経営者にとっては「思いどおりにいかなくても、結果的にうまくいきさえすればなんでもOK」なのではない。
あくまでも「あらかじめ考えた計画・方法どおりに物事を運んで、成果につなげること」こそが、経営の本分というわけだ。
なぜかというと、「たまたま」や「神風」による成果には再現性がなく、翌年以降も同じパフォーマンスを上げられる保証が何もないからである。
「結果オーライ」に頼っている経営者は、本来の仕事をできていないことになる。
ラッキーパンチは「やるべきことをやれていない自分」を覆い隠してしまう。その意味でとてもやっかいな存在である。
「ずっと悩んでいたけれど、なぜかたまたまうまくいった人」は、ラッキーの効力が消えた瞬間、また同じ問題にぶつかる。
そのとき、足元のはしごを外され、一気に谷底に突き落とされたような感覚を抱く。そして以前より深い悩みに沈むことになるのだ。
余計なことで悩まないためには、常に「問題そのものの解消」や「問題の昇華」を探ったほうがいい。
しかしそれは、やるべきことから逃げろという意味ではない。
向き合ったほうが効果が出るとわかりきっている課題があるなら、それを淡々とこなすことが、無駄に悩まないための近道なのである。
(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)