東京だけでなく、大阪や福岡のデベロッパーを自らも訪問し、何度も土下座した。比喩ではなく、本当に床に手をつき頭を下げて回ったのだ。

 うちが完成物件の引き取りをキャンセルしても何とか持ちこたえることができると判断した相手先を選び「とにかくお願いします」「何とか考えてください」と、徹底的に頼み込んだ。しかし、そんな苦し紛れなやり方がいつまでも通用するはずがない。「もう終わりかもしれない」と覚悟した。

書影『100兆円の不良債権をビジネスにした男』『100兆円の不良債権をビジネスにした男』(プレジデント社)
川島 敦 著

 こうなると社員に会社の窮状を正確に伝えるしかない。ある日突然「会社は倒産します。皆さんゴメンなさい」と言って社員を寒空に放り出すわけにはいかないから。腹を決め12月18日に社内レターを出した。社員から怒りの言葉が殺到するだろうと覚悟の上だった。

 ところが実際は違った。社員からはこんな言葉が返ってきたのだ。

「社長、レターを見ました。私にできることはコスト削減です。会社を救うためにやってみます」とか「大阪営業所としてはプロパティマネジメント(PM)もやって少しでもキャッシュ(現金)を稼ぎます」とか、「頑張ってください」「諦めないでください」「僕らもやります」など、励ましがほとんどだった。「母屋で粥をすすっている時に、離れですき焼きを食べているわけにはいきません」というのもあった。うれしかった。

 孤独な社長室で思わず天井を見上げた。