ファンの不安…新経営になっても
創業の精神は守られるのか?
振り返るとユニゾン・キャピタルが資さんうどんを取得した当時は42店舗、売上高は71億円(17年8月期)だった。それが今では売上高152億円(24年8月期見込み)まで拡大し、240億円で売却するわけだから、今般のディールはユニゾン側からすると十分な成功といえるだろう。
一般的に投資ファンドによる企業再生というと、買収される側の企業風土が大切にされず、コストカットが商品力の低下を招いたり、経営と現場の対立で企業価値が下がるようなケースも散見される。そうした中で、資さんうどんがハレーションを起こさずに成長できたのは、ユニゾンから送り込まれた佐藤崇史社長の力によるところが大きい。
佐藤社長は、ソニーやボストン・コンサルティングをへて、ファーストリテイリングで経営変革や人事などの経験がある人物。資さんうどんの社長就任後は短期間で効率化・バリューアップを狙うことはせず、一貫して「会社の伝統を守る」姿勢で、現場目線に徹していたという。また、すでに亡くなっていた創業者の精神を引き継ぐための教育プログラム「資さん大学」を立ち上げ、幹部の養成をコツコツと続けてきた。
他にも、社内報をまめに発行したり、従業員だけでなくその家族や友人向けにも飲食割引制度を設けるなど、従業員を尊重する経営を行ってきた。加えて、LINEを活用したマーケティングやデジタル・トランスフォーメーション(DX)にも力を入れた。
繰り返しになるが、資さんうどんは九州・西日本に根強いファンが多い。首都圏を中心とした新店舗展開に当たっては、従来ファンによる口コミも評判を左右すると考えられる。新しい経営体制になっても、味やサービスを含めた創業の精神が守られるかは、重要なポイントだ。
買収発表時点では、すかいらーくHDは「北九州のソウルフードとして愛され続ける資さんの味・歴史を尊重し、大切に守り続けたいと考えています」とつづっている。また、佐藤社長も「引き続き、私は代表取締役社長として資さんの発展に邁進して参ります」と自身のXで発信している。ファンからすると、ひとまず安心といったところだろう。
ただ、資さんうどんには「1日3回8時間ごとに店内で多量のダシをとる」「天かすやとろろ昆布など薬味取り放題」など、効率重視の経営なら即座に削減しそうなオペレーションが山のように存在する。また、プロ経営者である佐藤氏が資さんでの役目を終え、次のオファーに進むことも十分考えられる。
買収成立、東京進出後の資さんうどんは、創業の精神を守りながら成長できるのか…。北九州時代からのファンは固唾を飲んで…いや、肉ごぼ天うどんとぼた餅に舌鼓を打ちながら見守っている。