「好きな仕事を長く続けたい」。そう考えたとき、あなたはどのような働き方を選ぶだろうか。“人と暮らし”にフォーカスしたルポルタージュやエッセイを多く手掛ける文筆家・大平一枝氏。彼女は、フリーライターとして独立した際、受けた仕事を「ライスワーク」と「ライフワーク」に分けて取り組んでいたという。プロとしてやりたい仕事を“長く続ける”ために必要な指針とは?※本稿は、大平一枝氏『こんなふうに、暮らしと人を書いてきた』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。
先輩ライターが授けてくれた指針
「ライスワーク」と「ライフワーク」
編集プロダクションを辞める時、すでにフリーライターとして活躍していた先輩から、こんなアドバイスをもらった。迷ったりぶれそうになったりするとき、必ず思い出す今も大切な私の指針だ。
「あのね、おーだいら。仕事には、食べていくために受けるライスワークと、ライフワークのふたつがあるんだよ。ライスはコメのための仕事。ライフは生涯追い続けられる自分がやりたい仕事。ライフは、どんなにしんどくても安くても、頑張れる。最初からライフワークが10割にはできないから、最初の年はライスが9割、ライフが1割。次の年はライスが8割、ライフが2割って、だんだんライフを増やしていけばいいの」
「そんなはっきり、割合で示せるものですか?」
「確定申告があるじゃん。取引した会社名を全部書くから、そのときはっきりわかるよ。ここはライス、こっちはライフだったなって」
シチュエーションは忘れたが、先輩のピカピカ発光するような横顔を覚えている。料理と旅が彼女のテーマで、「全部とは言わないけど、今わりとやりたい方向性でやらせてもらえてると思う」と、偉ぶらず、しかし誇りに満ちた表情で語った。売れっ子で、当時から同世代平均月収の倍近いギャラを稼いでいたであろうその人は、28年経た今も現役だ。