iPodからiPhoneまで、アップル復活の舞台裏を知る「唯一の日本人経営者」が、アップル退社後に初めて語る「これからの世界」での働き方。マネジャーに最も大切なことは「瞬断」すること。では、決断できない日本人が世界で戦うためには、どのように考えればいいのか?

一秒で瞬断する。判断するには「世界の情報」を頭に入れる

「Make a decision in a second」

 この言葉は私がIBM時代に尊敬している方から贈られたもので、20年以上に及ぶ私のマネジャー人生の中でも根幹となる指針となっています。マネジャーやリーダーだけでなく、これから世界を相手に働こうというみなさんにもぜひ贈りたい言葉です。

 自分で自分の人生を積極的にマネジメントしようという人にとって、「決断力」に勝るスキルはありません。スピーディーに決断ができるかどうかは、個人や組織にかかわらず、あらゆる成果や業績を左右します。

 IBMで技術者だったころ、私はマネジャーへの昇進を拒んでいました。当時、私は技術者としての自分の成長に賭けていたので、マネジャーになることの良さが見出せずに悩んでいました。

 そんな折、ニューヨークから来日していたアメリカ本社のマネジャーと京都で食事をするチャンスがありました。私は、マネジャーになると仕事の内容や責任範囲の何が変わるのかと質問をしました。するとマネジャーはこう答えたのです。

「たった一つだけだ。make decision だけだ。マネジャーが意思決定できないと、後ろで待っているすべての部下が待ち状態になる。会社として大損失だ。そのくらい決断するというのは重要な仕事なのだ。IBMはそれができる本当に優秀な人材だけをマネジャーに育て上げ、教育し、会社全体の生産性の向上を図っている」

 マネジャーとしての仕事に大切なことはたくさんありますが、会社の業績に直結する本当に重要なこととは、一言でいえば「make decision」なのです。ただ、これは別にマネジャーに限った話ではなく、これからの世界で働くすべての人に等しく当てはまることです。

 例えば、部のミーティングで提案する企画案を練る、ミーティングの議題にのった案件の採決をとる、企画を実行するときに効果的に動く、お客様を回る順番を決める。どんな場面でも本来は「make decision」が必要なのです。もちろん、決断はリスクと隣り合わせですので、そこには大きな責任がともないます。

 日本の大企業では、組織があまりにも大きいためか、まだまだ終身雇用に近い人事制度のためか、自分の職の確保に走ってしまうからか、自ら判断し、その責任をとろうという人は少ないと思います。

 一つのことを決めるにも、まるでスタンプラリーのように何十人もの人に稟議書に判を押してもらわなければならないという制度は、それは人が増えれば責任の所在を分散して、結局誰も責任を負わないという仕組みでもあるのです。

 こうした事態は、ますますグローバル化する近年、アジアでビジネスを展開する際にも明確な問題となってきています。日本の品質や思いやりのあるサービスを選択したいのだけれども、あまりにも決断が遅いので、中国や韓国の企業と付き合うしかないというケースも多いそうです。