なぜ母親は
教育虐待をしたのか

 母がどうしてここまで教育熱心だったのか、直接聞いたことはない。はっきりとしたことはわからないが、母の友人にはセレブが多く、E子さんも幼稚園は受験をして私立に通っていた。小学校のお受験をする子も多い幼稚園だった。

「卒園の際、母親からどこの小学校に行きたいかを聞かれ、私は兄と同じ学校に行きたいと言い、近くの公立小学校に入学しました。でも、母は中流家庭から脱出してセレブな人生を私に目指してほしかったのかもしれません。そんなときに、幼稚園時代のママ友達から中学受験の話が出たことで、私を中学受験へと誘導しました」

 まだ、クラスの中で私立中学を受験しようとする生徒は数名しかいなかった。そのため、クラスの子が「女子全員であそぼうよ!でも、誰かさんは塾で忙しいから無理だね」と、言われたこともあった。

「誤ってストーブのお湯をこぼし、私が火傷をしてしまったときにも、泣きながら冷やしている私の火傷を心配することもなく、遊びにきた母の友人と談笑し、しばらくしたら、『塾の時間よ。早く行きなさい』と、言いました」

 母が学生だった時代、女性はどんなに優秀でいい大学を卒業できたとしても、結婚すれば家庭に入るのが普通だった。母もそうした人生を歩んできた。専業主婦として父の仕事をサポートしているものの、物足りない人生だったのだろうか。いい大学に入るため私立中学を受験するという自分の果たせなかった夢をE子さんに託したかったのだろうか。母の目的は理解できなかった。

 いくつかの私立中学を受験したが、全部落ちてしまい結局、公立中学に進学した。その後、母から言われた言葉が、今でも忘れられない。