「冷や=冷たい酒」は間違い

 ところで、この「ひやおろし」という言葉。語源をたどれば「ひや」と「おろし」に分けられる。「おろし」については文字通り「卸す(出荷する)」ことを表しているが、問題は「ひや」のほうだ。

「ひや」とは「冷や」、すなわち日本酒の温度帯を示す言葉であるが、誤解されがちなのはこれが冷やした状態を示すものではないということだ。

 日本酒における「冷や」は、実は常温を意味している。冷蔵庫などで温度を下げた状態は、正しくは「冷酒」であり、酒の世界では両者は明確に区別されているのだ。

 たまに居酒屋などで、日本酒を「冷やでください」とオーダーする人を見かけるが、言葉の通りなら常温の酒が出てくることになる。そこで店の側も「常温でよろしいですか?」と確認を挟むことになるが、「いや、冷やで」「だから常温ですよね」などと不毛な問答が発生しかねない。

 こうした誤解には売り手も辟易しているはずで、逆に言えば「冷や」と「冷酒」を正しく使い分けられる客は、なかなかツウっぽくてイケている。さっそく次の酒席から留意してみてほしい。