残暑の時期でも
燗酒がおすすめな理由

 そもそも日本酒というのは、数ある世界の酒の中でも、温度帯の変化をとことん楽しむことができる稀有な酒だ。キンキンに冷やしていただく冷酒はもちろんのこと、逆に温度を上げて楽しむ「熱燗」もある。

 熱燗はどうしても冬のものというイメージが強いが、実は夏場に燗酒を嗜む文化は江戸時代からの伝統である。

 ただでさえ冷たいものを摂取しがちな夏場は体に負担がかかるし、エアコンの効いた現代では尚更。そこで燗酒で体をいたわろう、という考え方が広まったわけだ。

 人の体はアルコールを体温に近い温度帯で吸収する性質があるといわれている。そのため冷酒の場合、体内でアルコールの温度を上げる行程が生じ、内蔵に負荷がかかる。逆に燗酒ならそうした負担を体に強いることはない。

 季節的にまだもうしばらくエアコンなしではいられないから、せめて燗酒で体内の負担を和らげてやってはどうだろうか。

 なお、熱燗は温度によって6種類に分類されている。たとえば、常温からほんの少しだけ温度を上げた30度前後を「日向燗」と呼び、ほのかな香りを楽しむのに適した温度帯とされている。

 35度前後のやや温かな温度帯は「人肌燗」で、米のふくよかな味が引き立つ。さらに40度あたりまで上げると「温燗(ぬるかん)」となり、熱くはないが香りがよく立つツウ好みの燗酒となる。

 そして45度で「上燗」、50度で「熱燗」、55度で「飛び切り燗」となり、それぞれ日本酒らしいキレが際立ったり、シャープな呑み口になったりと、酒のさまざまなニュアンスが引き出されることになる。その風流なネーミングもさることながら、こうした繊細な楽しみ方ができるも日本酒ならではだろう。

 何より、秋の味覚を日本酒で彩るのもオツではないか。この残暑の候を、日本酒で思いっきり楽しんでいただきたい。

「日本酒、冷やでください」「常温でよろしいですか?」「いや、だから冷やで!」不毛なやりとりが生じる理由温度を上げることでポテンシャルが引き出されるのも日本酒の醍醐味 Photo by S.T.