その結果、タクシー運転手の脳の空間情報をつかさどる部位(海馬後部)が、ふつうの人より大きいことがわかった。ロンドンの通りを覚えるために費やした時間が、脳の構造に影響を与えたのだ。精神活動が脳を変えたということだ。

 それだけではない。運転歴が長い人、つまりより長く実践してきた人ほど脳の変化は顕著だった。

スマホを長時間使うことで
脳は何を得て何を失っているのか

 ここで、少し思い出してもらいたい。2017年の統計データによれば、アメリカ人はスマホを1日に平均して4時間以上使う。

 1日4時間を何かに費やせば、どんなことでも相当うまくなるにちがいない。ピアノの練習に4時間もかけられれば、私は長年の夢である初見弾きを1カ月でマスターできるだろう。スペイン語の練習にあてれば、基本的な会話くらいはすぐに話せるようになりそうだ。

 私たちの脳もロンドンのタクシー運転手の脳と同じで、繰り返しと実践に強く反応するはずだ。では、毎日スマホに何時間も費やすことで、私たちはどんなスキルを伸ばしているのだろう。そして、どんな犠牲を払っているのか。確認する価値はあるはずだ。