子どもを諦めた後の「未産うつ」
試練に直面する人もいる

 かおりさんが「マダネ プロジェクト」で活動するのは、安心して自分の気持ちを話して共感してもらえる場所があるということの他に、自分の経験が何かに生かせたらという思いがあるからだ。

 不妊治療で苦しんでもがんばっても成功しなかった人の、その後の話は目にすることが少ない。治療後のフォローも少ない。

「私が通院していた不妊治療の病院では、治療をやめた後の心のケアに関する情報は、業務外だからか、何もありませんでした。長期間ホルモン剤による治療を受けたので、将来的な健康チェックなども必要だと思います。治療を受ける人が増えているからこそ、社会システムとして整えていくべきことがあるのではないでしょうか」
 
 厚生労働省は、不妊症・不育症患者に対する精神的サポートとして心に寄り添うピア・サポーターの育成を21年度から始めている。心のケアを提供する人が増えることはもちろん、当事者が日常的に接する周囲の人たちが、目の前の人にはさまざまなバックグラウンドがあることを想像できるようでありたい。

 保険適用によって不妊治療を受ける人が増え、今は40代で出産することは珍しいことではない。メディアでも「40代で出産」と高齢出産の成功例がたびたび取り上げられる。しかし、この状況が「40代でも産めると期待をあおり、子どもを諦めることを遅らせてしまっているのではないでしょうか」と、くどうさんは指摘する。

 子どもを諦めた後に気持ちが沈んだ状態が長くつづく「未産うつ」や、夫婦不和が生じる「未産クライシス」に悩む人も少なくない。

 生殖医療の技術向上の話題が増え、成功例ばかりがクローズアップされると不妊治療に区切りをつけにくくなることに加え、周囲が「あの人も40代半ばで産んだ」「まだがんばれる」と無自覚に激励してしまう場合もある。

 40代で順調に妊娠・出産ができることはとても幸運な事例だが、その背後には大多数の「子どもを持つことがかなわなかった人たち」がいることを知っておきたい。

 次回は、幼い頃から「子どもは欲しくない」という気持ちに悩んできたケイコさんの物語をお届けする。30代以降「欲しい」と「欲しくない」の両極で揺らぎ、自らを見つめ直したプロセスとは――。