同じような経験をしている人と
話ができたら

「最後の病院に転院してからは、自分の満足を得るための治療だと思ったので、夫に費用負担してもらうのはやめました。10年間で計52回の採卵、10回の胚移植、費用は2000万円ほど使いました」

 治療の最後の時期に「同じような経験をしている人はいないか、そういう人と話せたら、気分が変わるんじゃないか」と思い、情報を集めた結果、子どものいない女性を支援する「マダネ プロジェクト」を主宰するくどうみやこさんの著書に出合う。

 22年6月、51歳の時にくどうさんの講演会に参加。今年からは、スタッフとしての手伝いを始めた。

「今も、時々闇に落ちます。急に過去を後悔したり、歩いていて立ちすくんだりすることも。でも、マダネ プロジェクトで仲間たちに話すと『そういうこと、たまにあるよね』と受け入れてくれる。仲間がいる、安心して自分の気持ちを話して共感してもらえる場所があるということに今、支えられています」

 不妊治療を続けていた時に、産休や育休で休む人、小さい子どもを育てる同僚を支えたことがたびたびあった。しかし職場からは「当然、やってくれるよね」という圧力を感じた。「産休や育休の人が多くて。この仕事やってくれる?」と割り振られる。

 不妊治療をしている人、悩んだ末に選択的に子どもを持たないと決めた人もいるかもしれないことを想像してほしいと思う。

「職場に赤ちゃんを見せにくる人がいる時に『かわいいね』と言いながら心の中で泣いている人、その場から立ち去りたくなってしまう人もいることを知ってほしいです」

 治療の最中には言うことができなかったけれど、今年春、異動のタイミングで、最後のあいさつの時にかおりさんは話をした。10年間治療をしていたこと、職場でいろいろな発言に対して苦しい気持ちになったこと。「誰かを責めるわけではなく、いろいろな人がいるということを、ぜひ考えてみてほしい」と伝えた。

 同じ職場に、30代で不妊治療をしている同僚がいて、子どもを持つ周囲の人が「病院に行けばすぐできるよ」と悪気なく話すのを目にしていたのもあった。数日後、その同僚から「勇気を出して言ってくださってありがとうございます」と手紙をもらい「言ってよかった」と思った。