「スタートアップが成長できるか否か、そのカギは9割採用が握っています」――そう語るのは、ワンキャリア取締役の北野唯我さん。「常に人手不足」「認知度が低い」「内定を辞退されてしまう」「外資系との給与差が開いている」といった多くの採用担当者、経営者の悩みを解決するため、北野さんが執筆したのが、著書『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』です。これまで属人的で全体像が見えなかった採用活動を構造化し、3000社以上の企業の採用支援実績、180万人の求職者のデータに基づいた「新しい採用手法」を紹介した一冊です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集して紹介します。

スタートアップの生死を分ける採用

「上場し成長し続けるスタートアップと、途中で成長が止まる企業の違いは何か」

 そう聞かれたら、あなたはどう答えるだろうか。マクロ環境、事業ドメイン、競合環境、資本政策、経営管理、ガバナンス体制……事業成長がいつまで続くか、上場できるかは、多種多様な要素が絡み合っている。では、採用の観点から、この問いに答えるとすれば、何がキーとなるか。結論から言うとエグゼクティブ採用、「経営チームの組成がうまくいったか」「改善され続けているか」だと私は考えている。

 伸び続けるスタートアップは、経営者が常に最善・最適な経営チームの採用と組成にコミットし、経営チームの新陳代謝を図っている。一方、途中で成長が止まる企業は経営チームが弱い、またはエグゼクティブ採用にコミットしていないことが多い。

放っておくと組織は「左側」に偏る

 なぜ、エグゼクティブ採用には経営陣がコミットすべきなのか。それは、事業成長を最大化させるための「人材ポートフォリオ」を最適に保つためだ。人材ポートフォリオとは、社内の人材をいくつかのタイプに分類し、人材を組み合わせる分析手法をいう。有名なものでいうと、「組織×個人」と「運用×創造」のポートフォリオがある(図)。事業フェイズが変われば、最適な人材ポートフォリオのバランスも変わる。
 そして、放っておく(通常の新卒採用や中途採用をしている)と、人材ポートフォリオは左側に偏る。これは求職者としての発生確率と採用難易度の観点を考えれば必然的な結果である。言い換えると、(少なくとも採用時点では)左側の人材の方が市場に多く存在し、採用も比較的容易である。そのため、意識せずに放っておくと偏ることは必然=自然現象なのだ。

 一方で、スタートアップの経営者がやるべきことは、この自然法則に逆らうように、エグゼクティブ採用にコミットし、事業や組織の基準値を上げ続け、最善の経営チームを組成することだ。
 スタートアップ企業が組織内部から崩壊したりするのは、この構造を見抜けず、経営者がエグゼクティブ採用にコミットしなかったことが原因だと私は考えている。

 実際、日本を代表する起業家・経営者である、孫正義氏や柳井正氏、永守重信氏の自伝や書籍を読めば、彼らが常に最善の経営チーム組成・採用にコミットしていたことがわかる。

(本記事は『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』に加筆・編集したものです)。

北野 唯我(きたの ゆいが)
株式会社ワンキャリア 取締役 執行役員CSO
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に新卒で博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。米国・台湾留学後、外資系コンサルティングファームを経て、2016年ワンキャリアに参画、現在取締役 執行役員CSO。作家としても活動し、デビュー作『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版)など、著作の累計部数は40万部を超える。
ワンキャリアは2021年10月、東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場。累計3000社以上の企業の採用支援実績があり、累計180万人の求職者に利用されてきた。新卒採用領域の採用プラットフォーム「ONE CAREER」は2020年から4年連続で日本で2番目に学生から支持され、東京大学、京都大学の学生の利用率は95%となっている。