『SHOGUN 将軍』で「第76回エミー賞」の作品賞と主演男優賞に輝いた真田広之さん。彼の壇上でのスピーチが日本中を感動の渦に巻き込みました。
短い時間ながらも、想いを凝縮させた言葉で、全米はもとより、海を超えて日本のファンの心も揺さぶったのはなぜなのか。彼の言語化の魅力はどこにあったのか? 話題の書籍「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化大全」の著者・山口拓朗氏が、このスピーチが多くの人の心に届いた3つの理由を分析します。

言語化のプロが激賞! 真田広之さんのエミー賞受賞スピーチが人の心を揺さぶった3つの理由Photo: Adobe Stock

スピーチを分析すれば理由がわかる!

『SHOGUN 将軍』で「第76回エミー賞」の作品賞と主演男優賞に輝いた真田広之さん。彼の壇上でのスピーチが日本中を感動の渦に巻き込みました。まずはそのスピーチを見てみましょう。

■主演男優賞受賞時の英語スピーチより翻訳
「この場に立てる事を誇りに思います。奇跡です。FX、ディズニー、Hulu、ありがとう。クルーとキャストの皆様、SHOGUNに関わってくれた皆様、最後まで私を信じて、サポートしてくれてありがとう。本作は東と西が(壁を越えて)出会う夢のプロジェクトでした。とても難しいプロジェクトでしたが、全員が一致団結しました。私たちは全員で奇跡を作る事ができました。そして我々は共により良い未来を作ることができます。本当にありがとう!」
■作品賞受賞時のコメント(日本語)
「これまで時代劇を継承して支えてきてくださった全ての方々そして監督や諸先生方に心より御礼申し上げます。あなた方から受け継いだ情熱と夢は海を渡り、国境を越えました」

理由1:「感謝」を語った

日本人初の主演男優賞受賞。この上ない喜びの中、「やった!」「嬉しい!」「夢が叶った!」のように自分に意識を向けた感情表現は使わず、あまねく関係者に感謝の気持ちを伝えました。

唯一、自分に意識を向けた言葉も「この場に立てる事を誇りに思います」という品格を感じさせるもの。作品賞受賞後のスピーチで語った〈日本の時代劇を支えた先人たちへの謝辞〉からは、真田さんが抱く深い感謝の念が伝わってきました。

理由2:「胸アツなストーリー」を語った

短いスピーチの中で、真田さんは胸アツなストーリーを語りました。

私の著書「言語化大全」の中でも、伝えるときの定番の型として紹介している「ストーリー型」は、「発端(マイナス)→転機→成長→未来」の構成です。

真田さんのスピーチは、まさしくこの型を踏襲していました。「本作は東と西が(壁を越えて)出会う夢のプロジェクトでした。とても難しいプロジェクトでしたが【発端(マイナス)】、全員が一致団結しました【転機】。私たちは全員で奇跡を作る事ができました【成長】。そして我々は共により良い未来を作ることができます【未来】。最高の舞台で研ぎ澄まされた物語(ストーリー)を披露する鮮やかさ。わずか10秒の、小さくも美しい物語に触れた気がします。

理由3:エモーショナルな表現を使った

感情に訴えかける言葉の選び方が深く印象に残りました。主演男優賞の受賞スピーチでは、「東と西が(壁を越えて)出会う夢のプロジェクト」「全員で奇跡を作る事ができました」など心に響く表現を用いました。

一方、作品賞の受賞スピーチでは「日本の映画関係者」のような凡庸な表現は選ばず、「これまで時代劇を継承して支えてきてくださった全ての方々」と、日本の時代劇への敬意を具体的に示しました。さらに、「あなた方から受け継いだ情熱と夢は海を渡り、国境を越えました」という表現も出色。これが「あなた方が積み上げてきた功績のお陰です」程度の表現だった場合、そこまで私たちの胸を打つことはなかったでしょう。

「夢」「情熱」「海を渡り」「国境を超え――言葉一つひとつにも強さと美しさがあります。

そのうえ、表情や声、ジェスチャーにも感情をたっぷりと乗せ、日本人初の主演男優賞受賞という歴史的スピーチの魅力を最大化していました。

決して多くを語らずとも、しかし、たっぷりと感情を込めて語った稀代の名優・真田広之さんのスピーチ。「感謝の言葉」「胸アツなストーリー」「エモーショナルな表現」という3つは、ビジネスパーソンがパブリックスピーキングを行う際の要素としても有効です。

※スピーチ文章は『ORICON NEWS』より転載しています。
 

 *本記事は、「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化大全」の著者、山口拓朗氏による書下ろしです。