「エヴァンゲリオン」や「電車男」の流行で一般層に広がる

ーー坂上:顧客はどのような方が多いのですか。

吉田:最も主要な層は、アニメ、ゲーム、漫画などが全て好きないわゆるマニアックな方々です。年配の方が多いですが、小学生のような若い方もいます。ところが、最近では秋葉原に観光に来た方が記念に購入する、初音ミクというキャラクターだけが好きでグッズを購入する、というような20代のそこまでマニアックでないライト層が非常に増えています。

 また女性の方も多く、40%~45%が女性ですね。JR秋葉原駅から徒歩5分のところにある、とらのあな秋葉原店Bは、女性用に作られた店舗です。

秋葉原で初めてコミック・同人誌の専門店を開店し、<br />爆発的な支持を得るとらのあな女性向けフロアーの店内

ーー坂上:ライト層が増加したのはいつごろ、何がきっかけですか。

吉田:2000年前後に「新世紀エヴァンゲリオン」というアニメが大ヒットしたころから、漫画やアニメが認められていきました。それまでは、一般の方々に良いイメージがありませんでしたね。「漫画なんて読んでいると頭が悪くなるぞ」と、私もよく言われていましたから。

 そして、2004年頃「電車男」という書籍がブームになり、一般層に広がっていきました。同時期に、音楽においてインディーズバンドがメジャーデビューするように、同人からスタートした多くのクリエイターの方が成功し、活躍したことも大きいと思います。

ーー坂上:世の中にアニメや漫画が広がっていったんですね。

吉田:そうですね。例えば、コミックマーケットという漫画やアニメに関する大きなイベントがあります。ビックサイトで年2回、夏と冬に行われており、個人のクリエイターが作品をその場で販売するものです。そこには4万8千人ものクリエイターが集まり、現在毎回50万人の人々が参加しています。日本で最も大きいイベントの一つだと思いますが、今でも参加者が毎年3万人、5万人という単位で増えています。

ーー坂上:そもそも、なぜ同人誌の販売をする企業を設立しようと思ったのですか。

吉田:もう17年以上前になるんですが、同人誌を制作しているクリエイターの自宅におじゃました時、山のように積みあがった段ボールを見たんですね。四畳半の部屋の3分の1が埋め尽くされているほど。その段ボールの中見はすべて、彼が制作した同人誌でした。

 彼は同人誌をつくることが目的で、販売に関することをあまり考えていなかった。また、当時は我々のように同人誌を取り扱う店舗は無かったので、基本的にはコミックマーケットなどのイベントでしか、販売することができなかった。夏に制作して売れ残った作品は、冬まで部屋に置いておくことになる。それでも売れ残ってしまったら、部屋に残されていく。そうした結果が、山のような段ボールでした。

 そこで彼らの作品を集め、販売しようと考えたのが、とらのあなの始まりです。彼から同人誌を預かり、同じような状況にあるクリエイターを紹介してもらい、作品を集めました。そして、秋葉原にある販売面積が10畳くらいの小さな店舗を借り、スタートしました。

秋葉原で初めてコミック・同人誌の専門店を開店し、<br />爆発的な支持を得る秋葉原にある旗艦店

ーー坂上:開店直後の反響はどうでしたか。

吉田:非常に良かったですね。今でこそ秋葉原はアニメや漫画のお店が集まる地域となっていますが、当時はただの電気街で、そのような店舗は全くありませんでした。そのためか漫画やアニメ好きの人たちの間で話題になり、開店して30分もたたないうちに、店内が人で埋まりました。正直なところ、なぜこれほどお客様がいるのか、と驚いていました。作品も次々に売れ、用意していた作品の半分が開店から3日間で売れてしまいました。

ーー坂上:ランチェスター戦略で言うところの「差別化」ですね。コミック専門店という当時無かった店舗をつくり、さらにその中でもマニアックな人たちを対象にした同人誌を取り扱った、と。

吉田:そうですね。開店してから2、3年は競合も全くいませんでしたので、着々とお客さんを増やしていきました。