「あなたの会社は上から目線、自社都合の採用活動をしていませんか?」――そう語るのは、ワンキャリア取締役の北野唯我さんだ。
「常に人手不足」「認知度が低い」「内定を辞退されてしまう」「外資系との給与差が開いている」……こうした、多くの採用担当者、経営者たちから寄せられる悩みを解決するため、北野さんが執筆したのが、著書『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』である。これまで属人的で全体像が見えなかった採用活動を鮮やかに構造化し、3000社以上の企業の採用支援実績、180万人の求職者のデータに基づいた「新しい採用手法」を紹介した一冊だ。
この記事では、本書の内容を元にしながら「採用活動を成功させるためにやるべきこと、やってはいけないこと」を北野さんに語ってもらった。(構成/ダイヤモンド社・田中怜子)

9割の人が知らない「若手の面接で聞いてはいけないこと」・ワースト1Photo: Adobe Stock

徹底的に「求職者」を理解せよ

 私は「うちの会社にはいい人が来ない」と悩んでいる9割の会社がやっていることと、採用活動がうまくいっている1割の会社との違いは何か? この問いを、ずっと考えてきました。その集大成としてシンプルで覚えやすい「行動指針」に落とし込んだのが、本書で紹介している「採用の9か条」です。

第1条 タイミングを制する者が採用を制する
第2条 いい人材は固まる。コミュニティをおさえるべし
第3条 新卒採用は、デザイン、オフィス、演出、採用サイトに投資せよ
第4条 求職者理解の徹底を怠るな。ここからジャイアントキリングが生まれる
第5条 企業イメージへの投資を怠るな。特に大量採用の成否はイメージが決める
第6条 初任給、平均年収、ボーナス、家賃補助について人は話したがる。自社を知ってもらうための武器として使え
第7条 人材輩出企業のイメージを一度でも獲得すれば、人々はそれを一生忘れず他人に語る
第8条 徹底的に人間関係を見せよ。社員と社員、上司と部下、自社と他社の関係性こそが、最強のコンテンツになる
第9条 トップの人材は、トップの人材にしか口説けない

 このうち、「できていない会社が多いな」と特に感じる項目が、第4条の求職者理解です。

 求職者理解とは、文字通り「相手を知ること」です。相手を知るとき必要なのが
・世代全体の理解
・一人ひとりの人間の理解

の2つです。

新卒の面接で、志望動機を聞いてはいけない

 前者の「世代全体の理解」では、マクロの視点で今の若手が何を嫌がるかをしっかり知ることが大事です。

 私が聞いた話で「新卒採用にかける時間が膨大でもったいないので、職種別採用をやめ、総合職採用に変更、エントリーシートのハードルを上げた」という会社の例がありました。

 最近の話ですよ? 私からすると、「これらの施策はすべて間違い。時代の逆を行っている」と感じます。
 実際、エントリー数は激減し、その年の採用は全くうまくいかなかったそうです。

「新卒採用にかける時間を減らしたい」というのは、会社側の都合です。今のような人手不足の時代に、それは全く通用しません。新卒採用で候補者となる若手は、タイパを大事にします。第一志望の会社ならいざ知らず、多くの会社が選択肢にある中で、エントリーシートのハードルが高い会社は最初にはじかれるでしょう。

 同じような理由で、面接で「志望動機」を必要以上に聞くこともよくありません。相手の気持ちになったら、売り手市場の新卒採用で、「正直、志望動機なんてないよ」という会社もたくさん受けているからです。そのような相手の状況を理解しない、上から目線の会社だなと受け取られてしまいます。

クロージングの段階で大事なことは「恋愛と同じ」

 最終的に内定者を決めるクロージングの段階では、後者の「一人ひとりの人間の理解」に必須になってきます。目の前の「この人」に入ってもらうことが重要になるからです。

 ある小さなコンサルファームでは、Slackに内定候補者全員のチャンネルを作って、理解しようとしていたそうです。そこには「面接で言った些細な言葉」「重要な場面でした意思決定」など、その人の情報を細かくメモして、採用チーム全員で共有していたとのこと。
 企業の採用とは少しフィールドは違いますが、プロ野球の日本ハムが、当時大リーグ行きを望んでいた大谷翔平選手を口説くために使ったプレゼン資料「大谷翔平君へ 夢への道しるべ」はとても有名ですよね。そこには「日本ハムに入ってください」という内容はなく、「大谷選手のキャリア全体として、自分たちの球団にどんなメリットが提供できるか」という視点になっています。

 どちらの例も、「相手のことを徹底的に理解する」という点で共通し、成功しています。

 こうした努力を惜しまなければ、最終的な意思決定の段階で小さな企業が大きな企業に勝つ、いわゆる「ジャイアントキリング」はいくらでも可能になります。

 人間なら誰でもそうですが特にZ世代は「私個人を見てほしい」というニーズが強いです。クロージングは恋愛と同じだと考えて、ぜひ取り組んでみてください

(本記事は『「うちの会社にはいい人が来ない」と思ったら読む 採用の問題解決』を元にした語り下ろしです)。

北野 唯我(きたの ゆいが)
株式会社ワンキャリア 取締役 執行役員CSO
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に新卒で博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。米国・台湾留学後、外資系コンサルティングファームを経て、2016年ワンキャリアに参画、現在取締役 執行役員CSO。作家としても活動し、デビュー作『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版)など、著作の累計部数は40万部を超える。
ワンキャリアは2021年10月、東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場。累計3000社以上の企業の採用支援実績があり、累計180万人の求職者に利用されてきた。新卒採用領域の採用プラットフォーム「ONE CAREER」は2020年から4年連続で日本で2番目に学生から支持され、東京大学、京都大学の学生の利用率は95%となっている。