そこで、筆者は、11年に佐藤主光・一橋大学大学院教授との共著論文で利用した簡易なマクロ経済モデルのリニューを行い、先述の中央防災会議の被害想定を基に長期金利のシナリオを試算した。おのおののシナリオでは、1000本のモンテカルロ・シミュレーション(不確実性を含む変数に繰り返し異なるランダムな値を用いることにより、リスクの発生確率について妥当な予測を行う手法)を実施し、その平均値を導いた。
まず、35年に首都直下地震が起こるシナリオでは、震災がなかった場合と比較して、その数年後に長期金利は最大で1.03%ポイントも上昇する。また、40年に首都直下地震が起こるシナリオでは、最大で同1.16%ポイントも上昇する。どのシナリオでも、長期金利が大幅に上昇する可能性が明らかになった。
日本経済は現在デフレを脱却し、インフレ経済に転換し始めている。足元の長期金利は0.8%程度だが、日本銀行は金融政策を徐々に正常化しており、長期金利の上昇に伴い、今後は国債の利払い費も増加することが見込まれる。
このような状況下、首都直下地震や南海トラフ地震が発生すれば、国債の利払い費増加や財政赤字のさらなる悪化が懸念される。ただし、巨大震災発生時には国債を大規模に発行してでも被災地を復興することが求められる。有事にも対応できる財政基盤を持つために、今のうちに財政的な余力を高めておくべきだろう。
(法政大学教授 小黒一正)