日本で見つけたイノベーションが生まれる土壌の新パターン

どんな問題にもユニークな答えがある!世界的イノベーターの頭の中HIDESHI HAMAGUCHI
monogoto - CEO / ziba - executive fellow
京都大学卒業後、松下電工(現パナソニッック)に入社。全社戦略投資案件の意思決定分析担当となる。1994年、日本初、企業内イントラネットをサイボウズ創業者の高須賀宣氏とともに考案・構築。98年から米国のデザインコンサルティング会社、Zibaに参画。99年世界初のUSBフラッシュメモリのコンセプトをつくり、その後数々のイノベーションをリード。パナソニック電工米国研究所、ソフトウエアベンチャーを経て、2009年に戦略ディレクターとしてZibaにリジョイン。その後Zibaのエグゼクティブフェローを務めながら、自身の実験会社「monogoto」を立ち上げ、ビジネスデザイン分野にフォーカスして活動を行っている。ドイツRedDotデザイン賞審査員。 

──多数の企業の事例をご覧になった経験を踏まえて、イノベーションに向く組織の特性があれば教えてください。

 向く・向かないというより、イノベーションを起こす組織のつくり方って、僕の経験上では2パターンしかないと思います。いや、そう思っていました、かな。一つは「イノベーション推進本部」とか「新規事業部」みたいな組織をトップダウンでつくるパターンです。優秀な人を集めて予算を付け、場合によってはコンサルも入れる。それをヘッドクオーターや組織の上層に組み込む。つまり、人、金、手法をそろえて、アイデアが生まれるのを待つわけです。企業が取り組むイノベーションの9割はこれです。
 
 残り1割はゲリラです。アイデアのある人やチームが勝手にやり始める。僕が松下電工(現:パナソニック)時代にマイナスイオンドライヤーを企画したのはこのパターンです。当時、僕は住設部門で瓦の材料開発や住設建材の研究企画を担当していた立場なのに、いきなりドライヤーを企画して、勝手に実験してデータをそろえ、縁もゆかりもない小物家電の部門に売り込みに行った。何カ月もかけて説き伏せて、たくさんのメンバーの協力を得て、発売に至り、成功し、やがて美容家電カテゴリーにまで成長しました。

 つまり、組織が先か、アイデアが先かの2択です。僕は具体的な製品やサービスがなければ組織は動かないと信じている派なので、アイデアから始める2つめの方法が最も有効だと思っていました。でも最近、一つの超新星を観測しました。

──どんな事例ですか。

 日本のある企業から「新しい事業本部を立ち上げるから手伝ってほしい」と依頼されました。最初はよくあるイノベーション組織による事業創造、つまりパターン1かと思ったんです。でも、話を聞くと、その新規事業組織に規模の大きい既存ビジネスがPLにくっついてきた。目的はあくまで新規事業開発だけど、既存ビジネスの収益責任も負え、というわけです。そして、既存ビジネスの中身はいじってもいいし新たな事業を起こしてもいいと言う。これは天才的発想です。

 これは組織先行型の中にさんぜんと輝くニュータイプですね。実際に参画して、かなりエキサイティングなプロジェクトだと感じています。こういうのが日本企業から出てきたのは本当に面白い。