課題と戦略を多層的に整合させ、成功の確度を上げる

──以前から「課題をエレガントに解きたい」とおっしゃっていましたが、さらに研ぎ澄まされているように思います。

 シンプルなのに、裏の裏まで組み立てられている。それが美しい答えだと思います。数学の難問を解くように、あるかなきかの一筋の道を見極めて、ぐちゃぐちゃのジグソーパズルのピースを全てきれいにはめていく。それが僕の仕事です。

 棋士は数十手先まで読むといいますが、僕もむちゃくちゃ深いところまで読みます。表面上のコンセプトの下に、市場投入の順序、それによる環境変化、ライバルの動き、それをブロックする手段などを多層的に組み立てておく。クライアントとの通常のディスカッションで共有するのはせいぜい5階層ぐらいまでですが、僕の中で実は、1桁上の50階層ぐらいまで考えています。

──クライアントからそこまで求められていないのに、ですか。

 ゴールはあくまでビジネスの成功ですから、そこまで設計しておかないと僕自身が怖いじゃないですか。それに、クライアントはコンセプト以外でも考えるべきこと、実行すべきことは山ほどあるので、通常はそこまで理解する必要はない。僕がやっているのはいわば刀鍛冶みたいなものです。

──刀鍛冶みたいなもの、というのは。

 刀の名工は、めちゃくちゃ深く考えて刀を仕上げますよね。刀の使い手は、それらを全て理解しなくても、実際に刀を振れば「切れ味が異常にいい」とか、「雑に振っても刃こぼれしない」というすごさには気付きます。実際に関ヶ原で戦うのは将兵です。僕の仕事は、そういった天下分け目の戦いに勝てる美しい刀を目指して作ることです。