「リーダーが絶対に読むべき本」と話題になっている本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしないから関係ない、と思っていても、不意打ち的に部下からパワハラで訴えられることがある。「そんなことがパワハラになるの?」と自分でも気づかない「ハラスメントの落とし穴」を教えてくれる1冊。発売直後から「上司も部下も、社会人全員が一度は読むべき本」「被害者や加害者にはならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」と話題沸騰中だ。著者は人事・労務の分野で約15年間、パワハラ加害者・被害者から多数の相談に乗ってきた梅澤康二弁護士。これを読めば「ハラスメントの意外な落とし穴」を回避できる。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。
「君に任せるよ」と言ったのに…
30代女性。上司が「君に任せるよ」と言ったきり、指導もせず仕事を丸投げ。
進捗共有のタイミングで、業務状況を報告したところ、「どうしてこれはやってないのか」「コストが高すぎる」などと文句ばかりを言う。「任せる」と言ったのに! 指導もしないのに、文句ばかり言ってくるのでやる気が削がれる。
【解説】
労働者は会社の指示命令に従って労務を提供する義務があります。
しかし、労務提供の内容や方法が明確でなければ、義務を履行しようがありません。
そのため、会社には労働者に労務を提供させる前提として、業務の内容や処理方法を明確にすべき最低限の義務があるといえます。
会社が労働者に対してなんの説明もサポートもなく労務提供を命じた場合、会社として果たすべき義務を果たさない業務指示として、違法の問題が生じる可能性はゼロではありません。
もっとも、会社が業務内容について、「どこまで説明やサポートをするべきか」は簡単な問題ではないですよね。
少なくとも、会社は労務提供が客観的に可能な程度に説明やサポートをすれば十分で、労働者が100%納得するまで説明やサポートをする必要まではない、といえるでしょう。
そのため、労働者自身が納得するような説明やサポートがないから、という理由でパワハラの主張をしても、その主張がただちに正しいことにはならないのです。
なんのフォローもしないで叱責したら、パワハラになる!?
ただし、部下が未経験の分野について、なんの引き継ぎやフォローもなく仕事を丸投げし、「期待通り処理されていない」などと厳しく叱責するケースもあります。
このように、客観的に明らかな理不尽があるような場合は、パワハラが認められる余地があります。
今回のケースの場合、たしかに上司が部下に対して仕事を丸投げしている様子はあるようです。
しかし、上司との間で適宜業務の進捗が確認されており、上司が部下を完全に放置している事案とまではいえなさそうです。
また、上司が「任せる」と言ったからといって、部下が対象業務についてすべての決定権限を持っていることにならないのは当然です。
上司が部下に進捗確認した際にネガティブなコメントがされることは十分にありえることです。
部下からすれば「勝手なことを言いやがって」と不満に思う気持ちは理解できますが、だからといって上司の行為は違法なパワハラということにはならないのです。
上司は部下と仕事の進め方や認識を丁寧に共有すべき
もっとも、当然、仕事の任せ方にも許容範囲はあります。
たとえば「上司が仕事を丸投げしつつ、期待通りにならないとひどく叱責する」ような状態が繰り返されれば、上司と部下の関係性が悪化するだけでなく、部下の心身に不調が出る恐れもあります。
結果、部下の職場環境が大いに阻害されたとして、パワハラと評価される余地も生じてきます。
上司側は部下とのコミュニケーションが円滑になるよう、業務を開始する前に仕事の方向性、進め方について丁寧に説明したり、認識を共有したりするなど工夫すべきでしょう。
※『それ、パワハラですよ?』では、「そんなことがパワハラになるの?」という意外なパワハラグレーゾーンの事例を多数紹介。上に立つ人はもちろん、すべての働く人が読んでおきたい1冊。
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。