討ち取った敵の「首」は
功績の証拠だった

 まず一つ目は、「実存としての顔」です。顔というのはその人物を認識するうえで極めて重要なシンボルであり、誰しも顔を知らない相手のことをリアルに思い浮かべることはできません。

 例えば戦国時代の「首実検」では、討ち取った敵の大将の首を持ち帰ることで功績を示し、論功行賞の検討材料としました。顔とはそのくらい、当人の実在性の証明につながるパーツなのです。

 もっとも、近年ではAIによって生成された人物画像が流通し始め、顔写真やビデオがあるからといって実存を意味するとは限らない。実に厄介な時代になりました。しかし当然、AIによって生まれた顔がどれだけリアルでも、その人物が実際に会社へ出向いて面接を受けることはできません。

 二つ目は「身分証明としての顔」。これは本人との同一性を確認するために必要な役割を担い、顔は、履歴書が示す人物と目の前の人物が同一であることを知るツールになります。

 かつての健康保険証よりも、パスポートや運転免許証の証明能力が高いことは、皆さんもよくご存じでしょう。これが顔写真の有無によるものであることは言わずもがなです。

 また、スマートフォンのロックを解除する際など、顔認証の技術がすっかり定着していることからも、顔は身分証明のための有力な材料になっています。顔はそのくらい、個人にひも付いた唯一無二のものなのです。