ポイント経済圏20年戦争

ビデオレンタルチェーンを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のポイント構想に欠かせなかった加盟店がコンビニエンスストアである。日本初の共通ポイントであるTポイントはどのようにコンビニを陣営に加えたのか。『ポイント経済圏20年戦争』から一部抜粋し、ローソンが加盟に至った内幕を明らかにする。(ダイヤモンド編集部)

※この記事は『ポイント経済圏20年戦争』(名古屋和希・ダイヤモンド社)から一部を抜粋・再編集したものです。

ローソンとCCCの蜜月で
Tポイント構想が前進

 カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)取締役だった笠原和彦が考案したポイント構想の柱は、各業界の最大手を加盟店として囲い込む「ナンバーワン・アライアンス」だった。構想にとって欠かせない業態がコンビニエンスストアである。

 ポイント構想にコンビニが欠かせない最大の理由が、利用頻度である。ガソリンスタンドや外食チェーンの場合、利用は多くても1週間に数回程度。だが、コンビニはそれらをはるかに上回る。コンビニはポイントを回遊させるためにも、なくてはならないピースだったのだ。今でもポイント経済圏にとってのコンビニの存在感は大きい。

 候補に浮上したのが、業界2位だったローソンである。ローソンは流通の雄、ダイエーを親会社として75年に創業した。だが、バブル崩壊とともに拡大路線が行き詰まったダイエーが2000年以降、経営再建を目的にローソンの株式を三菱商事に譲渡した。

 三菱商事は02年5月、ユニットマネージャーという肩書だった新浪剛史をローソンの社長に送り込んだ。新浪は当時43歳。東証1部に上場する小売業では最年少の社長だった。

 ローソンの実質的なオーナーがダイエーから三菱商事へ移行するさなかの異例のトップ人事だった。だが、このタイミングこそがCCCにとって、加盟店開拓の絶好の機会となった。

 実は、ローソンのトップに就いた新浪とCCC社長の増田宗昭は親密な関係にあったのだ。二人は経済同友会での財界活動をきっかけに懇意となっていた。後に新浪はローソンからサントリーホールディングスのトップに転じ、23年には財界首脳の経済同友会の代表幹事に就くことになる。

 ただし、当時は二人ともまだ同友会の経営者の中では若手といってよかった。二人の橋渡しをしたのが、フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャー)社長の金丸恭文である。

 年齢は増田が八つ上。だが、金丸を介して知り合った二人は意気投合した。二人の縁をきっかけに、CCCとローソンは幾つかの共同施策にも取り組んでいる。

 その延長線上にあったのが、共通ポイントである。増田は新浪に、共通ポイントへの参画を依頼した。まだ世の中に共通ポイントという概念はなかったものの、新浪は強い興味を示した。業界首位のセブンを追うためにポイントが強力な武器になると感じ取ったのかもしれない。そして、二つ返事で引き受けた。

「1枚のカードでいろんな楽しみや夢や希望がある、そんなカードをつくりたい。その中でローソンさんとよーしやろう、と」。03年3月3日、東京・恵比寿のウェスティンホテル東京でCCCとローソンが開いたポイント提携の記者会見。増田は抱負をそう語った。

 新浪は提携の経緯をこう説明した。「ローソンの理念を理解していただき、またかつCCCの考え方が生活密着である。それで2社でいろんなことをやれたらいいね、とそこから提携の話が始まった」。記者会見で、増田と新浪は笑顔でがっちりと握手を交わした。ローソンがCCCの共通ポイント構想の主軸になることが固まった瞬間だった。

 03年に増田がローソンの社外取締役に就くなど増田と新浪はしばらく良好な関係を築いた。だが、実のところ、両者の個人的な交遊を前提としたCCCとローソンの蜜月関係はそれほど長く続くことはなかった。

 それから4年後、ローソンとCCCはポイント経済圏の覇権を巡ってたもとを分かつことになる。ローソンの電撃脱退によってTポイントは最大の危機を迎えることになる。(敬称略)