3日で1000万DL、「中国のソフトパワーが認められた」?
“挙国体制”といえる大掛かりなマーケティングの結果、「黒悟空」は販売から3日後の8月23日にはダウンロード件数が1000万件に達し、また米国、英国、シンガポール、タイなどで大量にダウンロードされていると、そのスピードと国際性が再び派手に報道された。本稿執筆時における最新報道によると、発売から約50日が過ぎた時点で、米ゲーム配信サイト「Steam」だけで2110万件を販売し、その売り上げは10億米ドルを突破した。「中国のソフトパワーが認められたのだ」という自画自賛の声も続いている。
だが、肝心のゲームの評判やいかに?
ユーザーたちの感想を拾ってみると、相変わらず「映像がきれい」「スムーズ」「とにかくリアル」といった映像に関する評価に集中しており、ゲームそのものやストーリーについて言及する声はあまりない。
一方で、販売翌日の21日には中国SNS「微博 Weibo」(ウェイボ)は、「某国産ゲームを巡る批判的、攻撃的書き込み」1000件余りを削除、さらに100を超えるアカウントを永久封鎖したと発表している。つまり、「黒悟空」への批判は許されていないというわけだ。
だが、当局の「管理」が及ばないツイッター上では、実際に遊んでみたという著名インフルエンサーが、ゲーム中に「頭のない死体」や「女性の裸」、「血の池」など、日頃の中国エンターテイメントでは許されていないはずの表現が多々あるとコメント。「まるでこの作品は当局の検閲を受けなくていいという特権を与えられているようだ」と述べている。さらに、発行前に義務付けられている検閲のスピードも異例の速さだったことを語り、「政府が高品質の国産ゲームを支持する姿勢を示すものだ」と胸を張ってみせた政府寄りメディアの記事はすでに削除されてしまっていた。
また、西遊記ファンの中から、かつて天宮で大暴れしたほど手に負えない暴れん坊だった孫悟空が「なぜ今になって国威発揚に利用されるのか?」を論ずる記事も出たが、ことごとく削除されている。
ダウンロードしたユーザーの80%以上が中国籍
同時に報道によると、「世界中の注目を浴びている」と喧伝されてきたものの、細心のSteamのデータによると、ダウンロードしたユーザーのうち中国籍のユーザーが80%以上を占めていることが明らかになっている。また、別のゲームデータ企業のレポートでも、販売件数のうち中国国内が全体の75%を占めているという結果が出ている。
「世界」に向けて文化パワーを発揮したいと願ってきた中国にとって、この「成功」は本当の成功といえるのか。いや、それともその熱に当てられて国内観光客が観光地に殺到するほどのブームを巻き起こしたことはその成功といえるのか。中国のトイレで夜を過ごすことを考えるだけで身震いしてしまう筆者にとって、あの観光客たちの姿は、決して中国が世界に誇るソフトパワーとはいえないのではないかという気がする。