子どもがゲームをしていいのは週に3時間

 中国のゲーム業界はここ数年、「厳冬期」にあった。

 きっかけは2021年8月に、中国政府が18歳未満の子どもたちのゲーム利用を規制する政策を発表したことだ。この政策以降、子どもたちは月曜日から木曜日までの間、オンラインゲームをしてはならず、許されたのは金、土、日曜日のそれぞれ20時から21時までの各1時間のみ。つまり、ゲームをしていいのは1週間にわずか3時間というものだった。オフラインゲームも同様の扱いとされてはいるものの、こちらは保護者の意識次第だろう。

 政策はオンラインゲーム業界に大打撃をもたらした。業界トップのテンセントは株価が大暴落、数日のうちに数百億米ドルの企業価値が「蒸発」するという事態を引き起こした。

 この政策を回避しようと、子どもの代わりに家族がアカウントを作って子どもに貸し与えるというケースも起きた。当局は高い技術力を持つテンセントなど運営者にユーザーの顔認証登録の導入を義務付け、その一方で80代のユーザーが夜中までゲームをしているケースをキャッチ、家族の協力を「摘発」したりもしている。

 政府は、そのゲーム規制政策の2カ月前には、「生徒や親たちの負担を減らす」という名目で、義務教育生徒たちの校外教育(つまり学習塾)や宿題を禁止する政策も実施。これによって前年の新型コロナウィルス拡大騒ぎがきっかけに大ブーム化していたオンライン校外教育もまた、あっというまに潰れてしまった。

 これらによって、中国で当時急成長していた二大オンライン産業は壊滅的なまでに崩壊し、中国はあっという間にネットビジネス氷河期に入った。実はこうしたオンライン産業の従事者こそまさに学童期の子どもを持つ親たちに代表される中産階級であり、経済があっという間に冷え込むという事態を引き起こした。

 あれから約3年、業界はどうなったのか。

 筆者は「黒悟空」の出現直前に、業界関係者が「かつてゲームに投資していたベンチャー投資家がすっかり姿を消した。ゲームに投資していた連中が今失業しているんだから、投資どころの話じゃない。投資家自体が雲散霧消してしまった」と、悲観的な観測がまとめられた記事を読んだばかりだった。

 そんな最中に、「黒悟空」が派手なじゅうたん爆撃式マーケティングを行ったのだから、異常事態以外の何物でもなかった。