「預金を全部よそに持っていくぞ」と
怒鳴る客に思わず言いたくなるひと言
先の女性行員が欠勤した翌日、数人の男性から彼女を指名する電話が10本程度あった。特に用件はないようだ。一目見ようと、あるいは声を聞こうと思ったのかも知れない。女性であれば、妊娠中や産後間もない行員もいる。また、反抗期の育児や親の介護で疲弊している行員もいる。彼女らは非常にセンシティブになっている。お客次第で、職場復帰できないくらい取り返しがつかなくなることもある。
「『お客様は神様』じゃねえのかよぉー!」
私自身、窓口でよく言われることがある。そして、それを聞く度にさまざまな葛藤を覚える。銀行は不特定多数のお客を相手に、表向きには皆平等に応対しなくてはならない。だが、実際には自分の銀行をもうけさせてくれるお客を差別化している。
長らくゼロ金利、いや、マイナス金利が続いてきたおかげで、預金残高が多いお客は神様ではない。その残高に対して、預金保険機構に保険料を支払わなければならない。
「お前の銀行にいくら預けてやってると思ってるんだ!全部よそに持っていくぞ、コラ!」
と言われると「どうぞ他行にお預け下さい」と喉元まで出そうになる。
目黒冬弥 著
東京都では全国自治体で初めて、カスハラを防止する条例が10月4日に成立した。2025年4月1日に施行される。私にしてみれば、遅すぎるくらいだと感じる。
あれから3カ月。彼女はいまだに出社できていない。いつ出勤できるか分からなければ、人員の補充もなされない。したがって、同僚への負担も大きくなる。支店の雰囲気が悪くなる。心ないSNSの投稿ひとつで、壊れてしまうものは計り知れない。
この銀行に勤務して四半世紀。つらいこともうれしいこともあった。私は今日もこの銀行に感謝しながら、懸命に神様へ対応している。
(現役行員 目黒冬弥)