楽天の三木谷浩史会長兼社長Photo:JIJI

楽天ポイントの大きな特徴が、そのポイント経済圏に有力なアパレルブランドを軒並み抱えていることだ。ただし、有力アパレルは当初、楽天(現楽天グループ)には見向きもしなかった。『ポイント経済圏20年戦争』から一部抜粋し、楽天がどのように“ダサい”イメージを払拭し、ファッションEC の「ZOZO1強支配」を打破していったかを明かす。(ダイヤモンド編集部)

※この記事は『ポイント経済圏20年戦争』(名古屋和希・ダイヤモンド社)から一部を抜粋・再編集したものです。

アパレル業界をポイント経済圏に
大胆策で「楽天=ダサい」を払拭

 長くポイント経済圏の射程が及んでいなかったのがアパレル業界である。楽天ポイントの総責任者である笠原和彦は、アパレル業界の開拓を狙っていた。

 最初に口説いた先がセレクトショップ最大手のユナイテッドアローズ(UA)だ。UAはビームスに勤めていた重松理らが独立し、89年に設立された。SPA(製造小売り)化もうまく進め、急成長を遂げたセレクトショップの雄である。

 16年に笠原は、そのUA専務の藤沢光徳と意気投合する。藤沢は、服を売ったら終わり、というアパレル業界のそれまでの発想に疑問を持っていた。ポイントを媒介に集めた顧客の購買動向をもっと分析すべきだと考えていたのだ。

 ただし、UA社内では反対の声が大きかった。最右翼が社長だった竹田光広である。「自社のことは自社でやるべきだ」。実際、すでに自社ポイントもあった。

 だが、藤沢は諦めなかった。まずは、UA子会社で自らが社長を務めていたブランド「coen(コーエン)」で、18年3月に楽天ポイントの取り扱いをスタートさせる。楽天ポイントに参画したアパレル第1号だった。楽天ポイントの効果もあり、coenの売り上げは2~3%も伸びていたのだ。その実績を基に、笠原はUA全体への導入も呼び掛ける。

 だが、再び反対に回ったのが竹田だった。竹田は店頭でのスタッフの声掛けなどを念頭にこう言った。「店の品や雰囲気に合わない」。

 当時、楽天はUAに楽天市場への出店も申し入れていた。楽天の責任者がファッションを担当していた執行役員(現常務執行役員)の松村亮である。外資系戦略コンサルティングファームから楽天に転じ、EC事業にアサインされた松村に課せられた最初のミッションの一つが、楽天のウイークポイントだったファッションの強化だった。

 だが、UAの反応は渋かった。UAは飛ぶ鳥を落とす勢いだったファッションEC「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」に出店していた。アパレルECサイトではZOZO1強にあって、UAにとってECはZOZOだけで事足りるといった状況だったのだ。

 実際、楽天市場への出店について、竹田は松村に対してこう言った。「分かるでしょ。あんなごちゃごちゃしたところに出したらブランドのイメージが壊れてしまう」。要するに、楽天は「ダサい」という宣告であった。

 アパレル業界関係者が持つ楽天のイメージを変える必要があった。一つが楽天ロゴの変更である。18年6月、楽天は旧来のものに比べて、スタイリッシュな現在のロゴに変更する。

 さらに、松村は、UAやビームス、JUN、マッシュグループ、ベイクルーズといった大手アパレルブランドに足しげく通った。各ブランドの意見を聞き、それに対応することで、従来のブランドとEC事業者という関係を超えた協力関係を築き上げた。そこから楽天市場ではなく、新たなサイトを設けて、出店してもらう方向性が浮上した。楽天市場に加え、アパレルに特化した新たなプラットフォームを立ち上げるという大胆な策である。

 風向きは次第に変わってきていた。そこでスタートしたのがアパレル専門のECサイト「Rakuten Fashion」である。松村の努力が実り、UAやビームスといった人気ブランドが多く出店した画期的なサイトだった。デザインは楽天市場とは大きく異なり、竹田に指摘された「ごちゃごちゃ感」も消えた。

 アパレル業界で楽天の存在感が高まる中で、UAも楽天ポイントに対する態度を軟化させていた。そして、22年10月28日、UAでの楽天ポイントの取り扱いがスタートした。効果は抜群だった。UAの売上高は3%も伸びた。議題となっていたOMO(オンラインとオフラインの融合)策も進んだ。

 当初はUAを横目で見ていた他社も、楽天ポイントの取り組みがうまくいっているとみるや次々と導入を決める。ベイクルーズやJUN、マッシュグループも自社ポイントを残しつつ、楽天ポイントを新たに採用した。

 元々アパレル業界は、共通ポイントには消極的だった。そこにはブランドイメージを毀損しかねないという危惧があった。だが、楽天ポイントは、アパレル業界で長らく課題となってきた、実店舗とECの融合という課題に一つの解を与えた。ポイントとRakuten Fashionを軸にしたアパレル業界向けのOMO策が、楽天のポイント経済圏をさらに深耕させたといえる。(敬称略)