「今の自分」に左右されるな

 さらに重要なことに、「今この瞬間に抱いている感情こそが、過去の感情や未来に起こるであろう感情よりも重要」ということも書いてある。

 わかりやすい例として、旅行前のパッキングの話が書いてある。今、寒いと感じていたとすれば、旅行先で着る予定のない上着などをつい入れてしまう、ということだ。私も、夏に冬服を見ると「こんな暑い服、必要ない」と思ってつい冬服を処分してしまうし、冬には夏服をいらないものとして捨ててしまうことがよくある。これもすべて、現在の感情で考えてしまっているからだ。

 また、別の例として「遠い未来の予定に、重いものを入れてしまう」というのもある。たとえば私は先日「1冊の本を読んで、その解説を5000文字で書く」という仕事の依頼を引き受けたのだが、これを明日までにやってくれ、と言われたら確実に断っていた。

 しかし、締め切りが1カ月後だったため、未来の自分の感情を考えずに引き受けてしまったのだ。そして今、締め切り当日に本を読み、泣きながら深夜に5000文字の原稿を書く羽目になっている。

 人間は、未来の自分が経験する感情を理解できないのだ。

 さらに遠い未来になると、自分が何を重要視するかも変わる、という話が本書で出てくる。今大好きなアーティストがいて、そのアーティストのライブならいくら払っても行きたい、と思っていても10年後には興味がなくなっているかもしれない。理屈ではわかっていても、自分の今の感情は現在進行形の「生(なま)のもの」なので、なかなかそうは思えないのだ。

未来の自分とのつながりを強化する

 ここまでの話をまとめると、大事なことは、

・未来の自分を鮮明に想像し、自分だと思う、または親しみを感じる対象であると認知することは大事である
・人は、現在の自分の感情は、未来の感情よりも大事なものとして扱ってしまう

 ということだ。

 未来の自分とのつながりが強ければ強いほど親近感を感じ、倫理的な行動をとる傾向があるということらしい。一方で、現在の感情には引っ張られてしまうので、ここを解決することが、なりたい自分になるための重要なポイントであるわけだ。

 もちろん、本書では、それを解決するための具体的な方法がいくつも紹介されている。上記で挙げたような、未来の自分を具体的にイメージすることから、未来の自分に手紙やメールを書くことも推奨されている。自分の顔写真を老化させるアプリを使って、未来の自分をよりリアルにイメージすることも紹介されている。

 将来の自分と定期的に対話をする時間を設けるという提案もある。未来の自分はどのような回答をするか? をくり返すことで、より身近に未来の自分を感じることができるようになるのだ。