『週刊ダイヤモンド』11月2・9日合併特大号の第1特集は「三菱・三井・住友 最強財閥」です。日本経済をけん引してきた三菱、三井、住友の財閥グループと、オーナー企業に変革の波が押し寄せています。東京証券取引所による企業統治改革を受けて、企業同士の株式持ち合い解消が加速し、強い結束に陰りが見えます。一方、大胆な経営判断などが強みのオーナー企業も、上場維持コストの負担を回避しようと非上場化に踏み切る動きがあります。最強財閥とオーナー企業の針路とは。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

三菱グループ「鉄の結束」に綻び
上場維持メリットを問うオーナー企業

 日本経済をリードしてきた三菱、三井、住友の財閥系企業グループとオーナー企業を、ガバナンス改革の大波が襲っている。

三菱、三井、住友の最強財閥とオーナー企業を襲う「ガバナンス改革」の大波とその影響を解明!三菱グループによるグループ内株式の持ち合い社数は延べ161社から81社へとほぼ半減し、社外取締役・社外監査役の“派遣”も8社から4社へと減少した(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 大きな契機となったのは、東京証券取引所が2018年に改訂したコーポレートガバナンス・コードだ。東証は上場企業に対して、政策保有株式について保有目的や、保有適否の検証、縮減方針などを開示するよう求めた。23年には、「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」やROE(自己資本利益率)の改善も要請した。

 コーポレートガバナンス・コードを後ろ盾に、特に海外の機関投資家や「物言う株主(アクティビスト)」は、政策保有株の売却に圧力をかけた。その圧力にさらされた財閥グループの各社は、グループ企業の「結束」の象徴ともいえる持ち合い株を次々と売却していった。

 特に顕著なのは、三菱グループだ。ダイヤモンド編集部は、18~23年度の三菱、三井、住友グループ主要企業の政策保有株と社外取締役・社外監査役の“持ち合い”を徹底調査。その結果、三菱グループによるグループ内株式の持ち合い社数は延べ161社から81社へとほぼ半減し、社外取締役・社外監査役の“派遣”も8社から4社へと減少したのだ。

 そして「組織の三菱」が崩壊の危機に直面していることを象徴する衝撃的な出来事が起きた。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と三菱重工業が23年度、同じ“御三家”の三菱商事株を売却したのである。

 ある三菱グループの首脳は「同じグループだから株を持つ、という理由だけでは今の時代で通用しなくなった。三菱グループの“血のつながり”は完全に薄らいでいる」と明かす。三菱グループの「鉄の結束」に綻びが生じている。

 三井、住友グループも株式の持ち合いを徐々に解消している。これまで日本経済を牛耳ってきた「最強財閥」が揺らいでいる。

 オーナー企業も、ガバナンス改革の大波と無縁ではいられない。

 22年4月の東証市場再編に伴って、資本効率の改善をはじめ、少数株主や外国人株主への配慮、財務・非財務情報の英文による情報開示など、東証が定めるコーポレートガバナンス・コードの順守徹底が求められた。

 そんな中、とりわけ豊富なキャッシュを持つオーナー企業は、上場を維持するメリットへの自問自答を始めている。

 業績が低迷していた一般用医薬品(OTC)業界の最大手、大正製薬ホールディングス(HD)は23年11月、過去最大規模の7000億円超のMBO(経営陣による買収)を実施。中長期的な成長を目指して非上場化に踏み切った。

 事実上の無借金経営で、わざわざ市場から資金調達する必要もなかった大正製薬HDは、上場維持コストの重さなどを挙げた上で、「上場を維持することの必要性を見いだしにくい」と断じた。

 上場していれば、上場維持コストの負担が重いだけでなく、アクティビストの標的になって、買収されるリスクもはらむ。東証の市場再編後、大正製薬HDのように、“生き残り”を懸けて非上場化へかじを切ったオーナー企業が相次ぐ。

 結束力に綻びが見える財閥グループ、そして長い歴史と伝統を誇るオーナー企業は今、生き残りに向け難しい局面に立たされている