2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。
「あ! なるほど!」という感動体験を
早いタイミングで提供する
ユーザーの最初の5秒の興味を引きつけることに成功したとしよう。その次は、「あ! なるほど!」という感動、「アハ体験(=マジックモーメント)」をできるだけ早いタイミングで与える設計が重要になる。
ユーザーがプロダクトを使いだしたタイミングや、プロダクトを受け取るタイミングなどでいかに「頭に電球が光る感覚」を持ってもらうかがキーになる。これは「Time to first Value」といって最初に価値を感じる、感動に到達するまでの時間をできるだけ短くするという観点だ。
Twitter(現X)は、10人以上フォローすると利用者の定着率が上がる傾向を発見した。つまり、Twitterユーザーにとって10人フォローして、自分の画面がフォローしている人たちのツイートで埋まることが、「アハ体験」だったのだ。
しかし、以前のTwitterは、サインアップした後にアカウントをフォローするまでの間に、プロフィールを作る、メイン画面で流れてくるツイートを見るなど、ユーザーがやるべき工程が多く、10人以上のフォローになかなかたどり着かなかった。
そこで、最初のサインアップ後のUXを大幅に変えたのだ。サインアップした直後に、「あなたの趣味は何ですか」と興味のある分野を選択させ、その趣味嗜好に近い人気アカウントのフォローの提案をすることで、一気に10人以上フォローさせることに成功したのだ。
Twitterは広告モデルなので、当然ユーザーが活性して、日々の利用率(DAU:Daily Active User)が上がることが、広告収入につながる。このアクティベーションプロセスを改善したことが、Twitterの収益の大幅な改善につながったのだ(下図)。
・ポケモン GOなら最初にモンスターと遭遇したタイミング
・出会い系のアプリのTinderならば最初にマッチしたタイミング
・Instagramなら最初に投稿して、「いいね!」がついたタイミング
・月額制ファッションレンタルのエアークローゼットなら、商品が自宅に届いて箱を開ける瞬間
がマジックモーメントになる。
自分たちのサービス/プロダクトにとってのマジックモーメントは何なのか。この発見が、大きなUX改善/顧客の定着率向上につながるのだ。
起業参謀の問い
・自分たちのプロダクトにとっての「マジックモーメント」は何か?
・「マジックモーメント」に至るまでに、無駄なステップを踏ませていないか?
(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。