夏目 2014年です。異業種交流会でショコラティエの野口和男さん(注1)と偶然出会ったことがきっかけでした。野口さんから「正しい素材を正しく使えば、誰にでもおいしいチョコレートは作れる」と教えてもらったんです。

注1 高級レストランやファッションブランドのチョコレートをプロデュースするトップショコラティエ。人材育成やチョコレート文化普及のための活動も行う。久遠チョコレートのチーフショコラティエを務める。

大川 障がい者の就労支援というと、補助金が出るのでパン屋さんをやりがちです。でも、実際のパン作りは工程も複雑で大変だから、結局、健常者の職員がフルで働いてパンを作ってしまう状況をいろんなところで見聞きしてきました。

夏目 パン作りは最後の工程の「焼き」で失敗すると、もう捨てるしかありません。だから厨房にはものすごい緊張感が走ります。賞味期限が短いから、売れ残りが出ると困るし、単価も高くない。ところがチョコレートはカットを失敗してもいいし、形がおかしくなっちゃったら、もう1回溶かしてやり直せばいいんです。

大川 何度も溶かして味は落ちないんですか。

夏目 数回までなら大丈夫です。変なプレッシャーや緊張感を排除できるので、障がいがある方でも自分のペースで働けます。作る過程で誰も排除しない食材です。

大川 再チャレンジもできる食材なんですね。

夏目 チョコレートは値段も高いので、もともと粗利率が高いんです。パンは1つの商品を作るのに4~5時間かかります。失敗もあるし、火傷をする可能性もある。