主体的なキャリアを支援する
「開かれた組織」が求められる
教育訓練には、選択型研修など通常の業務から離れて必要な知識を得るOFF-JTというやり方と、職場で上司や先輩の指導を受けながら実務の中でスキルを身につけるOJTというやり方があります。
厚生労働省の『能力開発基本調査』によると、計画的なOJTを実施する企業は約6割でした。『就業者の転職や価値観等に関する実態調査2022』で経済産業省が定義する「社会人基礎力」について、自分が能力を持っているかどうかを聞いたところ、「OJT機会あり」の人が、すべての項目で「OJT機会なし」の人を上回っています。
この結果から、OJTは職務上のスキル習得はもちろん、社会人基礎力のような、どこの会社に行ってもある程度通用するような汎用的な能力の習得にも資することがわかります。このような取り組みを通じて、自社に限らず生かすことができるスキルの習得支援など、変化する労働市場に対応できる柔軟な人材育成が企業に求められているのではないかと考えます。
企業としては、社員がどこでも通用するような汎用的なスキルを身につけることを支援したい一方で、支援すればするほど育てた社員が外に出て行ってしまうというジレンマを抱えています。実際に頭を悩ませている経営者や人事担当者も少なくないでしょう。しかし、人材流動性が高いであろうこれからの労働市場においては、内向きの囲い込むような考え方ではなく、従業員が主体的にキャリアを考えることを支援する開かれた組織に変わっていく必要があります。
昨今では、退職した社員を対象にしたアルムナイ採用(カムバック採用)に取り組む企業が増えてきています。一度その会社を退職した従業員であっても、再び仲間として迎え入れるような職場は、働く人にとっても魅力的なはず。大切なのは、個人と企業が対等であることを前提とした「選び選ばれる関係」ではないでしょうか。
親子の対話も
自己探索の大事なヒントになる
ここまで紹介してきた企業事例のように、多様な選択肢を準備している企業も増えています。だからこそ個人は、さまざまな選択肢の中から、自分らしい意思決定をするための選社基準を持つことが大切です。
就職活動で考えていくのはワークキャリアだけではありません。仕事を含めたライフキャリアをどう歩んでいきたいのか、自己探索を深め、自分なりの軸を作る過程で、さまざまな経験をしてきた両親含めた保護者の方などとの対話も、重要な道しるべになっていくかもしれません。
(リクルート就職みらい研究所所長 栗田貴祥)