しかし、2018年になって195ヵ国の調査をまとめたメタ解析から酒に安全量などないという結果が『ランセット』誌に発表され、そのデータを引っ込めてしまった。

 ところがよくしたもので、同じ年に同じ『ランセット』誌に正反対の結果が発表された。イギリスを中心に約60万人の飲酒者を追跡したメタ解析によると、1週間に200gのアルコール飲酒者の方が、飲まない人よりも心臓病のリスクが低いというのだ(図3-3)。

図表2:日本酒毎日1合までは安全同書より転載
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 全死亡で見ても150g/週が安全量(閾値)である。毎日、日本酒1合、ビールロング缶1本程度(それぞれ175g/週)であれば、(イギリス人の場合は)酒は安全な上、循環器疾患を抑えるというのである。

 どちらの論文も科学的にはきちんとした内容である。われわれはどちらを信じたらよいのだろうか。まずは2人の賢人に聞いてみよう。

 月下独酌一杯一杯復一杯はるけき李白相期さんかな 佐佐木幸綱

 酔いはさめつつ月下の大路帰りゆく京極あたり定家に遭わず 永田和宏
(2首とも、永田和宏『人生後半に読みたい秀歌10』『一冊の本』朝日新聞出版、2023年1月)

ウオッカを飲み過ぎるロシア人男性は
世界の中でもひときわ短命

 ロシア人の酒の飲み方は、「破滅飲み」といってもよいかもしれない。ウオッカを飲み過ぎた結果、殺人、自殺、事故が増え、平均寿命は短くなる。