あらゆるビジネスの主戦場がネットに移ったことで、多くの企業がプロモーションや流通(チャネル戦略)の変更を余儀なくされました。広告メディアから販売チャネル、そしてサプライチェーンや決算システムまで、デジタルシフトが加速しました。

 情報環境が大きく変わるとともに、国民の暮らし向きもかつてとは様相を異にしています。これまでと同じ手法では、顧客の離脱に歯止めをかけることはできません。

ニューヨーク・タイムズは
老舗メディアながら変化を先取り

 先を見据えて変化を先取りした企業と足元の業績を重視して対応が後手に回った企業との間には、競争力に大きな差が生じました。これまでの経験則と成功方式だけでは乗り切れない時代、環境変化への適応力を高めて変化をチャンスに変える姿勢が求められます。

 オールドメディアがすべてダメだということではありません。老舗メディアでありながら、デジタルを味方にして契約者数を伸ばしている企業もあります。

 たとえば、1851年創刊のアメリカを代表する有力紙ニューヨーク・タイムズは、有料読者数が2023年9月に1000万人を超えました。同社にとって1000万の大台を超えるのは初めてで、デジタル契約がその成長を後押ししました。

 有料読者の9割強がデジタル契約であり、紙媒体の契約数の落ち込みをデジタルでカバーしています。右肩上がりでデジタル会員を惹きつける秘訣は、単純に紙の新聞をデジタルに移行しただけではありません。ニュースに加え、スポーツ専用サイトやゲーム、料理レシピなどのサービスを組み合わせたパッケージ販売が奏功しています(共同通信、2023年11月9日)。

 これまで既存のニュースメディアは、SNSやグーグルからのトラフィック(読者の流入)に大きく依存してきました。

 しかし、アメリカでは巨大プラットフォーム企業のニュース離れが加速しており、プラットフォームからのトラフィックが急減しています。こうした事態を受け、オールドメディアにはSNSやグーグルへの依存体制から脱却した独自の経営が強く求められています。