自戒を込めて言わせてもらえば、軽々しく「シナジー」などと口に上らせるべきではないということがしみじみわかった。永遠の愛を誓ったカップルでさえ、3組に1組が相乗効果を果たせず破局する時代。頭だけで考えた通りには、社会も組織も人も、たやすく融合などしないのだ。
周知の通り今年に入って、国内大手化学の間で、祖業に連なる石油化学などのバルクケミカルと、ファインケミカルの代表である医薬品との“離縁”や“疎遠”が立て続けに表面化している。代表格は三菱ケミカルグループだ。小林喜光元会長が「人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくこと」といったポエムに自己陶酔して「KAITEKI」経営をふわふわ続けていくうちに、医薬品子会社の田辺三菱製薬が投資上の重荷となった。そして9月上旬には、グループ外への売却を含めた事業ポートフォリオの見直しを進めていることを認めた。
不振が続く石化事業と比べて田辺三菱は、足元の利益面ではまだ貢献しているものの、経営戦略的にはシナジーが期待できないことを、親会社自らがゲロったようなものである。05年の三菱化学と三菱ウェルファーマ(07年に田辺製薬と合併し田辺三菱製薬に)による三菱ケミカルホールディングス設立から始まった雲を掴むような実験は、確たる成果を上げられないまま最終局面へ差し掛かった。
片や、三菱と同じようにグループ経営の足枷となっていながら、鵺的な態度で「失敗」を認めようとしないのが住友化学だ。傘下の住友ファーマは抗精神病薬「ラツーダ」のパテントクリフと、その穴埋めを期待した前立腺がん治療薬「オルゴビクス」など基幹3製品の伸び悩みから25年3月期で3期連続の最終赤字を見込んでいる。
ドライに切り捨てようとしている三菱と比して、リストラを許容してでもグループ内での再建を志向する親会社の姿勢は「結束」を是とする住友らしい面でもある。だが、浪花節が通じるほど市場は優しくないということがわかっていない。5月末には279円まで下落した住友ファーマの株価が目下、650円付近まで戻してきているのは止血に目途が見え始めたからではなかろう。国内中堅製薬各社の再々編が避けられないと予測されるなか、キャスティングボートを担うと目されての反応だ。
シナジー効果が不発という面では、石化業界の話ではないが、07年に戦略提携を結んだキリンホールディングスと協和発酵(現協和キリン)の関係も忘れてはならない。発酵という細い糸でビールと創薬とが結ばれているものの、現実には、親子会社がそれぞれまったく別の顧客を相手にビジネスを行っている。何より、キリンHDがヘルスケア事業をどうしたいのかまったく不明ときている。