少子高齢化が進み、15歳から64歳の生産年齢人口が急速に縮小している。労働供給の縮小によって賃上げの圧力となってもよさそうだが、なぜここまで実質賃金が上がりにくいのか。
筆者の結論は、冒頭で提示した7年前の論理と変わっていない。追加的な労働供給はいまだ枯渇していないからだ。就業者と完全失業者の合計である労働力人口の推移で検証してみよう。
総務省統計局の「労働力調査」の長期時系列表を見ると、23年の労働力人口は6925万人である。この数字は、17年の6732万人から193万人も増加している(労働力人口比率は60.5%から62.9%に増加)。同期間の男性の労働力人口は3789万人から3801万人まで12万人増加した一方で(労働力人口比率は70.5%から71.4%に微増)、女性の労働力人口は2944万人から3124万人まで180万人も増加している(労働力人口比率は51.1%から54.8%に増加)。
つまり、女性を中心に労働力参加率の上昇が続いており、それが労働供給を緩ませる原因になり続けているということだ。このような労働力人口の推移を見れば、実質賃金の停滞の原因が弾力的な労働供給にあることは17年当時と変わりなく、現下の実質賃金の微減あるいは伸び悩みは何ら不思議なことではない。
(東京大学公共政策大学院 教授 川口大司)