「歳をとった親が言うことを聞いてくれない」。誰もが一度はこんな経験をしているのではないでしょうか。「親がいつまでも自分のことを若いと思っている」「病院ギライがなおらない」「お酒の量が減らない」などその悩みはさまざまです。親のことを思って言ったのにもかかわらず、いつも喧嘩になってしまうのは、実は伝え方に問題があります。そんな問題を解決すべく、『歳をとった親とうまく話せる言いかえノート』が発刊されました。本記事では著者の萩原礼紀によるオリジナル記事をお届けします。

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親が帰省のタイミングをしつこく聞いてくる

【×】老いた親へのNG声かけ「だから、今度の休みには帰るって言ってるじゃん!」

【〇】老いた親に想いが伝わる声かけ「来週(来月あるいは、何月何日)に、時間をつくれるからそれでもいい?」

 今回扱う場面は、親から「早く帰ってきなさい。いつなら会えるの?」と問われたときです。

 NGの声かけも言葉自体に悪意は当然ありません。むしろ子どもの立場からすれば、毎回しつこく説教のようにガミガミ言われるのにうんざりしているからこそ、このような言葉になるのでしょう。

 親からしたら子どもに会いたいという純粋な要求なのですが、仕事や家族や立場もある現役世代の皆さんからすると、「すぐには無理なんだって」答えたくなってしまいますよね。

 ですが、その想いをそのままぶつけてもケンカになるだけです。イラっと来る気持ちは痛いほどわかりますが、一度冷静になって対応しましょう。

 冷静になったうえで、◯の例のように「具体的な提案」をしてみてください。親は皆さんに会いたいだけですから、いつだったらそれが実現するのか伝えると親は安心します。

 その際の注意点として、「ちょっと落ち着いたら帰る」といった具合にあいまいな返事をするのはやめましょう。親が「帰って来る気がないのに適当に返事をされている」と感じてしまい、より激しく問い詰められることになります。

 本当に予定が立たない場合は、仕事の目処が立たないこと、帰りたくないわけではないことを丁寧に伝えましょう。親も皆さんの足かせになりたいわけではありません。ちゃんと伝えれば理解してくれるでしょう。そのときに大事なのが「説明を省略しないこと」です。相手が上司や同僚であれば、誰もが丁寧な説明を心がけますが、相手が親となると、「全部言わなくてもわかるでしょ?」と、多くの人が最低限のことしか伝えません。

 しかし、こういったケースの場合、親にこそ丁寧な説明をするのが一番の近道です。話も理解されるうえに、あしらわれているわけではないと安心させる効果もあります。

 自立した子どもがなかなか帰って来てくれないというのはよくある家族間の問題です。それぞれに事情がありますから、家族ごとの正解を見つけていただければいいと思います。

 ただ、これまで多くの家族を見てきて感じるのは、親が他界してから「もっと話をしておけば、もっと思い出をつくっておけば良かった」と後悔するケースが多いということです。

 私たちが思うよりもずっと、高齢の親と現世で過ごせる時間は限られています。皆さんに無理はしてほしくありませんが、同時に家族の後悔が残らないかどうかも頭に入れておいていただけるといいでしょう。