原点となる「広尾学園」での経験が全面開花

学校推薦で東京大広尾学園から学校推薦で東京大学に進んだ生徒も「ラボ」を担当 資料提供:千代田国際中学校

――今回の新コースも、広尾学園での経験がベースになっていますよね。

木村 広尾学園では、「医進・サイエンス」コースを立ち上げ、最後は統括長として14年間携わりました。前例にとらわれずゼロから議論してよいと、自由にやらせてくださったことに心から感謝しています。本当にすてきな学校です。

 10年たって、コース所属の教員みんなで今までの取り組みを体系化しようと振り返った時、全員が絶対にこれだけは間違えずにやってこられたというものがありました。それは、生徒を信じようということです。初めから無理だと言わず、どうしたらできるかを生徒と一緒に考える。そこだけは誰もぶれることはありませんでした。実際は生徒から学ぶことが多かったと思います。

――広尾学園で論文を読んだ子が東大に行けた。だから、学術論文を読まなければいけないという「論文至上主義」の源が木村健太とみられていた。その罪を償ってほしい(笑)。

木村 論文を読んだら東大に入れるとか、読んでいないから入れないとかいう問題ではないです。でも、多くの高校生が学術論文の存在を知って、論文に目を通すようになったのならそれはそれでよいのかな(笑)。

 たぶんその話は、広尾学園の入学偏差値がいまほど高くなかった頃、東大が学校推薦型選抜を始めたというので応募してみた女子生徒のことだと思います。彼女は高3になるまで研究テーマが決まりませんでした。そこからがんばって実験して、面白いデータが得られて、仮説を立てるところまでいきましたが、大学受験も迫る中で時間もなく、詳細な検証を重ねるには至りませんでした。

 もちろん、研究成果を発表して賞をもらったりすることもできませんでした。それでも「このテーマが決まるまでに何本くらい論文を読んだ?」と尋ねたところ「40本くらい」と。ディスカッションをしても大学院生と同じようなやりとりができるレベルだったので応募してみたのです。一般選抜だと合格が難しい学力でしたが、合格しました。

――学び方や研究姿勢、モチベーションが評価されたのでしょうね。そうした生徒の資質を見抜いた東大も偉い。東大の学校推薦型選抜は本郷キャンパスの各学部が行っているからいいですよね。

木村 彼女は学部も修士も主席で卒業しました。現在はそのまま進学し、博士課程に在籍しています。千代田の研究活動の話をしたら、「私もやりたい」ということで参加してくれています。タンパク質の立体構造を解析して、その機能を読み解く「構造生物学ラボ」で生徒と一緒に研究を進めています。