また、業歴では、雇調金の特例措置が始まった2020年4月以降に起業した会社が58社あった。コロナ禍で事業が軌道に乗る前に、間髪入れず不正を行ったことになる。タイミングから察するに、不正を目的に会社を設立したと指摘されても否定できないケースも見受けられる。

不正受給公表企業の
倒産リスクは26倍

 不正受給が公表された企業の倒産がジワリと増えている。1437社のうち、これまでに76社が破産などで経営破たんしている。社名が公表された企業数を分母とした場合の倒産発生率は実に5.2%にのぼる。

 ちなみに、東京商工リサーチがまとめた2023年度の「倒産発生率(普通法人)」調査では、全法人の倒産発生率は0.2%にとどまる。単純計算で不正受給を公表された企業の倒産リスクは26倍に跳ね上がることになる。もともと、経営がひっ迫していたなかで、わらにもすがる思いで不正に手を染めた企業もあるかもしれないが、いずれにせよ生き残りは難しい実態が浮き彫りになっている。

 岩手県雫石町の温泉街「鶯宿(おうしゅく)温泉」の(株)長榮館は2024年2月20日、負債約28億円を抱えて盛岡地裁へ破産を申請した。

 100%源泉掛け流しの温泉旅館として1952年に設立。1998年には総額15億円を投じて地上9階建て、収容能力377人の新館を建設した。創業時から単独の源泉を利用し、温泉の湧出量は県内でも最大規模と評され、客室総数73室は鶯宿温泉業者の約20軒の中でも最大規模を誇った。

 コロナ禍の直撃で経営が悪化していたが、2022年12月に雇調金など約9025万円を不正受給したとして公表され、ペナルティを含め1億円以上の返還を求められた。

 さらに、他社と共謀して農林水産省の「農林水産物等販路多様化緊急対策事業」制度を悪用し、補助金約4000万円を詐取したことも発覚。代表者が逮捕され、信用が失墜した。

 破産後、長栄館は破産管財人の管理下で営業継続しながら事業譲渡を模索したが、スポンサー交渉が難航し2024年6月に営業を終了した。

社名公表で信用失墜は不可避
反社会的行為とみなされる可能性も

 雇調金の特例措置では、迅速な支給のための手続きの簡素化と負担軽減が、詐取という犯罪を誘発しかねないとの指摘はあった。だが、コロナ禍の混乱のさなかでは、企業への迅速な支援が求められ、行政側も眠る間も惜しんで処理スピードをあげた。審査体制の不備をいまさら指摘するのは無意味で無責任ともいえるだろう。

 一方で、雇調金の財源をたどれば、各事業主が拠出した保険料に行きつく。本当に必要な企業に対して必要な金額が、適切なタイミングで支給されたかどうか。検証することは必要で、ルール違反の企業は厳しく罰せられるべきだ。

 不正受給による社名公表や刑事告発は、信用失墜が避けられない。金融機関や取引先からはコンプライアンス(法令順守)違反のレッテルを貼られ、反社会的行為とみなされる可能性もある。社名公表企業の倒産発生率の高さが、その事実を物語る。

「どこもやってる」「どうせバレない」などの安易な気持ちや、甘い誘いに乗った不正が、実は取り返しのつかない事態となりかねないことを経営者は強く認識すべきだろう。