反捕鯨国に納得してもらうため、砲手たちはクジラの苦痛を減らし、即死率を高めようと腕を磨いてきた。そうして定着したのが、一発の銛でクジラを仕留めるパンコロである。
即死させられなかった場合は、乗組員が開発した「電気ランス」と呼ばれる通電装置を使用してクジラが苦しまないように捕獲した。
けれどもIWCに致死時間の長さを指摘される。阿部たちは即死させられなかった場合の致死時間を計測し、短縮するすべに頭を悩ませる。
着目したのが、北方狩猟民がトドを撃つライフル銃だ。
調査捕鯨の32年間は
反捕鯨団体との衝突の歳月
調査捕鯨がスタートしてから10年が経った1997年、ライフル銃を持つ人に捕鯨船に同乗してもらい、クジラにも有効か試したあとで実装した。
ノルウェーの生理学者、ロース・ワローの統計によれば、電気ランスによる致死時間はうまくいった場合でも3分以上を要したという。だが、ライフル銃の使用により、平均致死時間を104秒に短縮する。現在の砲手はみなライフルの所持許可を持つ。
宮城県警でライフルの所持許可証を申請した阿部は、試験が終わったあと担当の警官に「なんで捕鯨にライフルがいるの?」と問われる。
阿部は「人道的捕殺」のためにライフルが必要だと説明した。