さらに2010年1月、シーシェパードの抗議船アディ・ギル号が、調査船団の第二昭南丸に衝突し、沈没する。1ヵ月後、アディ・ギル号の船長が第二昭南丸に抗議のために乗り込んできて、船員たちによって拘束される。
帰港後、アディ・ギル号の船長は艦船侵入の容疑で逮捕された。阿部は言う。
「船をぶつけてくる、というのは船乗りとして尋常じゃないんですよ。ふつうの考えでは絶対にありえない。だって、沈んだら死ぬんですよ。あんな冷たい海で沈んだら、どっちかが必ず死ぬ。彼らとは絶対に理解し合えない」
捕獲数の爆発的な増加が
シーシェパードを刺激した
憤りがよみがえったのか。阿部は「ありえない」と再び語気を強めたあと「ただ」と継いだ。
「2005年から捕獲数を爆発的に増やしたでしょう。日本の捕鯨政策がシーシェパードを刺激した側面もあったと思うんです」
その指摘には、妨害活動の変遷を身をもって実感したからこその説得力があった。
南極海の調査捕鯨は1987年から2004年までの第1次と、そのあと10年続いた第2次に分けられる。
第1次で捕獲した南極海のクロミンククジラは、最大で年間440頭。
第1次について、阿部は「グリーンピースは反対するけど『まあそれくらいはいいんじゃないの』と容認しているような雰囲気だった」と感じていた。