労働と文化活動は両立できるのか

――本書の最終章では、「全身全霊をやめませんか」「半身で働くことが当たり前の社会になってほしい」といったメッセージが出てきますね。「どうすれば労働と読書が両立する社会をつくることができるのか」という難題に対して、この回答を出したのはなぜですか?

 読書って、自分にとって未知の文脈に出合えるところに価値があると思うんです。そもそも、「本が読めない状況」とは、「余裕がない状況」でもあると思う。

 じゃあ、どういう風にしたら本が読める社会がつくれるのかって考えた時に、「半身」という社会学者・上野千鶴子先生の言葉が参考になりました。自分から離れたところにある文脈をノイズだと思ってしまう余裕のなさを、どのように解消するかを論じたかったんです。

――本書の「帯」も秀逸です。「疲れてスマホばかり見てしまうあなたへ」の文言の横に、“積読”状態の本を見ながらデスクワークをする男性のイラスト。思わずギクリとしました。

書影『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)
三宅香帆 著

 あんなに好きだった読書に対して「息抜きにならない、頭に入らない、(スマホゲームの)パズドラしかやる気しない」と言い放った、『花束みたいな恋をした』の主人公に伝えたいですよね(笑)。

――ちなみに、疲れ切ったビジネスパーソンに、オススメの本はありますか?

 難しいですね(笑)。ごく一例ですけど、司馬遼太郎の『坂の上の雲』。すごく長いながらも、読んでいてアドレナリンが出てくるというか、人の「志」みたいなものをガッツリ描いているので、仕事がひと段落したタイミングなどにページをめくってみたら良いかもしれません。