なぜ研究時間が少なくなるのか。その背景として指摘されることの一つが、競争的資金の拡大だ。
国立大学の法人化以降、教育研究費や人件費にも使われる運営費交付金が、04年度~15年度の間に1470億円削減された。これによって、大学から教員、研究者に配られる研究資金は大幅に減った。足りない分は、他の研究者との競争に勝って獲得する「競争的資金」から得ることが必要になった。
競争的資金を得るには、応募するための書類を準備しなくてはいけない。研究目的や研究計画のほか、研究成果がもたらす効果や経費の見込み額まで、10ページ以上の書類が必要になることもある。
たとえば、毎年新規の応募件数が10万件前後ある日本学術振興会の科学研究費補助金。1人か複数の研究者が共同で行う独創的・先駆的な研究に最大で5000万円が配られる「基盤研究A」のケースを見てみる。
必要な項目は、研究代表者や研究課題名、研究の要約、研究経費などをまとめたもの。加えて、研究目的や研究方法、これまでの研究実績、研究に必要な施設や設備、必要であれば個人情報保護などの研究倫理の遵守への対応を文章にまとめて提出しなければいけない。
毎回必要になる情報、例えば応募する研究者の基本的情報も、応募するプログラムによって書類のフォーマットが違うこともあり、一つ一つ合わせなければならない。管轄が違えば、研究費の執行ルールが異なることもある。
取材班が24年に国立大学の教職員に行ったアンケートで、人文科学系の准教授は「書類作成に多大な時間と労力を割くことになる。メインの仕事を圧迫してくるほどである」と嘆いた。
社会科学系の准教授は「現制度の事務手続きは、大学の経費実行ルール+研究プロジェクトの経費実行ルール+研究ゴールへのルートを文書化し、それぞれ教員が文書で申請して承諾を得ることになっている。研究成果を出しながら、経費実行することになっており、非常に非合理で手間が掛かる」と書いた。
さらに、競争的資金は採択率が低いものもある。応募書類に時間をかけたとしても、資金を獲得できるとは限らない。そこにかけた労力が無駄になってしまうことも少なくない。
所属する大学や専門分野によっては、大学から配られる教育研究費が年10万円程度という教員もいる。競争的資金を得なければ、国内学会に参加するのもままならないという声もよく聞く。こうした状況を反映して、アンケートには、「結果的にすぐに目先の成果の出やすい研究に取り組む研究者が増加し、基礎的研究や長い目で継続していくべき研究等に対する保障がなくなっている」と指摘する家政系教授の意見も届いた。