こうした現状を受け、歴代のノーベル賞受賞者や大学関係者らは、「選択と集中」政策の転換を訴えている。

 問題点として指摘しているのは、少数のトップ大学ばかりに競争的資金が回るようにしたうえ、運営費交付金を抑制して地方大学を疲弊させてきたこと、予算が減った大学が人件費を抑制し、若手を中心とした多くの研究者が期限付きの雇用となったこと、実用的な応用研究に優先的に予算を回したため、短期間で成果が出やすい研究に取り組む研究者が増え、基礎研究などが弱体化したこと、などだ。

 日本の注目度の高い論文数の半数以上は、国立大学の研究者が生み出している。このため、国立大学の窮状が、日本の研究力低下にダイレクトに影響してきたのだ。ノーベル賞受賞者をはじめ大学関係者はことあるごとに、もっと基礎研究や成果が出にくい研究にも、幅広く予算が回るように政策を改めるよう訴えているが、国は方向性を大きく変えていない。

 それどころか、巨額の予算を投じて、さらなる「選択と集中」を進める政策を相次いで始めた。

 まずは、22年に法律を成立させ、国際卓越研究大学制度をスタートさせた。10兆円を投じて基金「大学ファンド」を設け、その運用益を使って、世界と戦える力があると判断した数大学だけに、年数百億円を配って支援しようとしている。24年度から、第1号に選ばれた東北大学への支援が始まる。

書影『限界の国立大学――法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか?』(朝日新書)『限界の国立大学――法人化20年、何が最高学府を劣化させるのか?』(朝日新書)
朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班 著

 一方、国際卓越研究大学となって研究力を一気に向上させることも目的の一つとして、東京工業大学と東京医科歯科大学が24年10月に統合し、東京科学大学が誕生した。東京工業大学も東京医科歯科大学も、国内ではトップ級の研究力を誇っていた。だが、統合をすることで本格的に「医工連携」などを進め、米国のマサチューセッツ工科大学といった世界の理科系有力大学と競い合う実力を身につけたいという。

 しかし、国際卓越研究大学制度へのあまりの予算の集中投下ぶりに、多くの大学関係者から、研究者の裾野を広げるために、地方大学なども参加しやすい仕組みも整えるべきだとの声があがった。そうした声を受けて、政府は1500億円の予算で「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」(J-PEAKS)も始めた。初年度の23年度は、信州大学、大阪公立大学、慶應義塾大学など国公私立の12大学が選ばれた。

 卓越大と比べ、トップ大学に続く大学が多く選ばれ、評価する声は多い。だが、こちらも支援を受けられるのは最大でも25大学だけだ。恩恵を受けるのは約800ある大学のごく一部に限られ、どこまで裾野を広げる効果を発揮できるのか未知数だ。