親が相続対策しないまま亡くなると、残された家族や子どもは、膨大な手続きに苦労したり、争族に巻き込まれたり、相続税が払えなかったり…と、多大な迷惑をこうむります。本連載では、知識のない親御さんでも、ステップ式で5日で一通りの相続対策ができる『子どもに絶対、迷惑をかけたくない人のための たった5日で相続対策』(ダイヤモンド社刊)を出版した税理士の板倉京さんが、最低限やっておくべき相続対策のポイントを本書から抜粋して紹介していきます。

【税理士が教える】知っておきたい「熟年再婚」の悲しい末路Photo: Adobe Stock

熟年再婚を考えたら、相続時のことも考えて

「こんなことなら、父が再婚したいと言った時に止めておけばよかった」。
相談者の和田弘美さん(50歳 仮名)は、だいぶ困っているようです。

和田さんの父は、亡くなる5年ほど前、75歳の時に10歳年下の女性と再婚。

「結婚したい人がいる」と言われた時は、ちょっと複雑だったといいますが、老後、一人寂しく暮らすよりも一緒に住んでくれる人がいたほうがいいと結婚に賛成。入籍すれば再婚相手に相続権が発生することもご存じでしたが、おめでたい話の時にそんなことを言いだすのも気が引けて、そのままにしてしまったといいます。

和田さんの父の主な財産は、自宅(時価3000万円)と5000万円程度の現預金でした。この財産は、小さな会社を経営していた父と10年前に亡くなった母が懸命に働いて築いたものだとのこと。「父の財産は父だけのものじゃなく、母と一緒に築いてきたものです。特に、自宅は私にとって父と母との思い出がたくさん詰まった家なんです。なのに、再婚相手は、『財産の半分はもらう権利がある。できれば、この家に住み続けたい』と言うんです」。

子どもたちにとって思い出の実家はゆくゆくは再婚相手の子に……

確かに、入籍している配偶者には婚姻期間の長短にかかわらず相続権が発生します。でも、両親が一生懸命築き上げた財産を半分渡さなければならないなんて、納得できない気持ちもわかります。

自宅に再婚相手が住み続けることになれば、再婚相手の子どもたちがその家に里帰りすることになり、他人の家のようになってしまうでしょう。

それだけではありません。再婚相手と和田さんの間には親子関係がないため、自宅を再婚相手が相続すれば、ゆくゆくは再婚相手の子どもがその自宅を相続することになります。 こうなると、和田さんとしてはますます再婚相手に財産を渡したくないという気持ちになるでしょう。

相続で配偶者の権利が強い理由の一つは、財産は夫婦の協力で築いたものだと考えられるからです。しかし、和田さんの父が再婚したのは75歳。その時には家も財産も持っていて、仕事は引退し年金生活でした。財産を消費することはあっても新しく築くことはなかったはず。配偶者に強い相続の権利を保障する法律の考え方には、ちょっとあてはまらないのです。

和田さんと再婚相手の相続問題は簡単に決着しそうにありません。

*本記事は、板倉京著『子どもに絶対、迷惑をかけたくない人のための たった5日で相続対策』(ダイヤモンド社刊)から抜粋・編集して作成しています。